オンラインギャンブルにハマる地方の若者 自宅で気軽に開始、依存症支援の手は届かず
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オンラインギャンブルにハマる地方の若者 自宅で気軽に開始、依存症支援の手は届かず

山口県阿武町の公金誤送金事件をきっかけに、オンラインギャンブルにハマる若者が予想以上に増えたのではないかとの懸念が、医療関係者や支援者の間に広がっている。逮捕された24歳の男性が「送金されたお金はオンラインカジノで使った」と供述したほか、支援団体への相談や医療機関の受診者も急増しているためだ。

オンラインの場合、地方にいても自宅でギャンブルを始められることが、デジタルに通じた若者への広がりを助長しているようだ。その半面、地方在住者は都市部の医療機関や自助グループにアクセスしづらく、回復が難しくなるとの指摘もある。(ライター・有馬知子)

●20代前半で「債務1000万円超」の若者も

元北星学園大教授で、現在は札幌市内の病院でギャンブル依存症の臨床に関わる田辺等医師が6月中旬、集団療法の参加メンバーにヒアリングしたところ、22人のうち半数を超える13人が、オンラインギャンブルの依存だった。このうち公営競馬が10人、オンラインカジノが4人で、1人は両方を利用していた。またカジノの利用者4人は全員20代~30代前半で、中には20代にもかかわらず、1000万円を超える債務を抱える人もいた。

「以前は珍しかったオンラインカジノの利用者が、すでに患者の2割に上ることに驚いた」と、田辺医師は言う。

オンラインギャンブルが台頭する以前、田辺医師の集団療法の参加者は10人中、7〜8人がパチンコ・スロット依存の中高年で「競馬の人は1人2人いるかいないか」だった。しかしオンラインギャンブルの割合が高まると同時に参加者の年齢は下がり、債務の額は増加していることが明らかになった。

「100万円を貯めた経験すらない若者が1000万円を超える債務を背負えば、『ギャンブルで返すしかない』と思い詰め、深みにはまるのは当然でしょう。ことの重大さを再認識し 若年対策を考える必要があると痛感しました」

田辺医師は、競馬などの公営ギャンブルが、人気タレントを起用した宣伝を盛んに行っていることも、若者が気軽にギャンブルを始める要因になっていると考える。さらに、携帯電話会社の決済サービスを使って馬券などを購入すると、携帯電話代と同時に料金が引き落とされるため、借金しているという感覚も薄くなってしまうという。

「『残高がなくなった、スマホが使えなくなるからお父さんお金を貸して』と子どもに言われて親が立て替えようとしたら、非常に高額な代金を請求されていた、というケースもあります」

●ギャンブルのシステムは途切れず、治療へのアクセスは途切れがちな地方事情

従来、広い北海道で市街地から離れた地域の人が競馬をやろうとすると、長時間車を運転し、主要都市の場外馬券場などへ行く必要があった。しかしオンライン化が進んだことで「地方に住む人もギャンブルにハマりやすい環境ができてしまった」と田辺医師は指摘する。

「家にひきこもりがちな人までもが、ギャンブルにハマっているとの話も耳にします」

一方、こうした人たちが依存症に陥ると、市街地にある依存症外来や自助グループに通い続けるのは大きな負担だ。行政は個人情報に関するセキュリティが壁となり、オンラインを活用した回復支援事業にはまだまだ手を付けられていないのが現状だという。「ギャンブルするシステムは途切れず、治療へのアクセスは途切れがち。保健師らがコロナ対策で手いっぱいになり、依存症者をサポートする余裕を失ってしまったことも痛手です」と、田辺医師は嘆く。

当事者・家族が自主的に開催するオンラインの会もあるが、zoomなどのデジタルツールになじみが薄く、参加をためらう人もいる。また自助グループは安心できる場をつくるため、依存症当事者限定の会が多く「オンラインでは参加希望者が当事者かどうかを判断しづらいため、新規参加者の受け入れが難しくなっています。同居家族に聴かれずに参加する環境が、なかなか整わない人もいます」(田辺医師)。

●「10分、20分で、10万、20万とお金が増えていくのがたまらなかった」

既に報じた通り「ギャンブル依存症問題を考える会」など支援者・当事者家族の団体は6月10日、政府にオンラインカジノの規制強化を訴える要望書を提出。同会の田中紀子代表は同日の記者会見で、同会への相談が急増していると述べた上で「これほど多くの若者が、カジュアルにオンラインカジノを利用するようになったとは」と驚きを口にした。

「考える会」につながった依存当事者らは口々に、オンラインギャンブルの「魅力」として「スピード感」を挙げる。ある依存症当事者の男性(40代)は、次のように振り返った。

「競馬はレース間の待ち時間が長いし、パチンコは1時間打っても勝つのは2万円くらい。でもオンラインカジノは、30秒で5万円くらいのお金が動くことも珍しくない。勝っている時は10分、20分という短時間で、10万、20万とお金が増えていくのがたまらなかった」

この男性は、賭け続けるうちに金銭感覚がマヒし、画面の金額がただの数字に見えるようになったという。「負けても、以前勝った記憶が変な自信を生み出し『ガツンと取り戻せる』と思うだけ。勝っても負けてもお金が無くなるまで終わらなかった」

●「リアルでのプロセスがなくなり、ギャンブルに純化」

また外から見ると、オンラインギャンブルとオンラインゲームは同じように画面を見続けるため、ハマるプロセスも同じだと誤解しがちだ。しかし「両方にハマっていた」という別の当事者は、「両者には大きな違いがある」と強調した。

「ゲームは上達すると仲間に称賛され、承認欲求が満たされることでハマっていく。僕も日常生活を捨てて、56時間連続でゲームしていたことがあります。しかしギャンブルの場合は、ただ金額だけに執着していたと思う」

田辺医師はオンラインギャンブルで、短期間に高額債務を負う傾向が強いのは「行為がよりギャンブルに純化しているためではないか」と分析する。

リアルの競馬なら馬券を買い、パドックで馬を見てレースに臨む。中高年のギャンブラーがひしめく場外馬券場や競馬場の雰囲気に、気圧される若者もいるだろう。しかしオンラインではこうしたプロセスは、すべて省略されてしまう。

「スマホ画面で複数のレースを同時に進め、お金の増減だけを追いかける。同じ10万円でも、スマホ画面で2分で失うのと、1日競馬場やパチンコ屋に張り付いた末になくすのでは、前者の方が深刻さを実感しづらいのではないでしょうか」

●「政府は、若者に依存物質を勧めるような施策を許すべきではない」

さらにオンラインギャンブルは、「スリップ(依存物質の再使用)」を防ぐのも難しいと、田辺医師は指摘する。

「入院中の場合、お酒や薬物は脱走しなければ手に入りませんが、オンラインギャンブルはスマホがあればできる。強引にスマホを取り上げるのも、患者との信頼関係の構築や情報管理の点で問題があります」

さらに「スマホは回復初期の患者を強く刺激する」とも強調した。

回復初期の依存症者は「見つからないならもう1回やりたい」「こうやったらばれないんじゃないか」という衝動と絶えず戦っている。そんな時、手元に衝動を実現できるツールがあることが、葛藤を増大させるのだという。スマホに通知される、カジノからのプッシュ広告も刺激になってしまう。

さらに「オンラインは短時間に多額のお金が動くだけに、ギャンブル依存に陥り死を覚悟した人が、一発逆転を狙って全財産を投じる場になりかねない」とも懸念した。

実際に「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中代表によると、同会が関わる当事者から今年に入って3人、自殺者が出た。自殺だけでなく横領などの犯罪や、子どものネグレクトといった社会問題の背景にも、ギャンブルが潜んでいることが少なくない。

田辺医師は最後に、以下のように語った。

「ギャンブルがもたらす社会への弊害は、表に出る以上に大きい。だからこそ政府は、若者に依存物質を勧めるような施策を許すべきではありません。カジノやスポーツ賭博の推進も、産業の衰退を挽回する政策を打ち出せない無能な為政者の、苦し紛れの手段でしかないと思います」

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