学生時代、人の携帯電話番号やメールアドレスを勝手に他人に教える知人がいたものだ。「◯◯くんがあなたの連絡先を知りたがっていたから、教えておいたよ」という具合に。本人にはまったく悪気はなく、むしろ「彼と恋愛に発展するといいね!」などの前向きなコメントが付け加えられているくらいなので、「こちらの許可なく教えたの?」と、怒る隙は与えられないことが多かった。
年齢を重ねるにつれ、こうした非常識な行動をとる人は減ってきたが、先日再びこのような事態に巻き込まれた。筆者の苦手とする人物から突然電話がかかってきて、なぜ連絡先を知っているのか尋ねたら、共通の知人から聞いたというのだ。筆者自身はその知人から連絡先を伝えていいか、質問を受けていない。
個人情報の受け渡しに関しては、社会的な問題となりつつあり、無視できない状況になっている。今年だけでも、他人の戸籍を不正に入手したとして、個人情報を売買していた調査業者ら8人が戸籍法違反などの罪で起訴された事件や、KDDI(au)の契約者情報を漏らしたとして、携帯販売代理店のパート従業員の女性と探偵業者が不正競争防止法違反(営業秘密侵害)罪で起訴された事件が発生した。このように、個人情報漏洩に関する事件は後を断たない。
これらの事件は営利目的によるものと考えられるが、自分の知らないところでの連絡先の伝達が、たとえ営利目的ではなく知人の善意によるものだとしても、その情報を入手した人がどのような使い道をするのかは分からないのである。
それでは本人に許可をとらず、他人に携帯電話番号などの情報を受け渡す行為には違法性がないのだろうか。篠田恵里香弁護士に話を聞いた。
●個人の電話番号も法的保護の対象となる
「電話番号等の情報を受け渡す行為については、プライバシー侵害が問題となります。自分の電話番号を、勝手に他者に開示されたくないのは当然ですね。したがって、個人の電話番号も、プライバシー情報として法的保護の対象となります。」
「個人情報は、開示により大きな不利益を被るおそれがあるため、開示に先立ち『本人の承諾』を得るべきです。本人の承諾なくして個人情報を開示する行為はプライバシー侵害として原則違法といえます。ただ、情報の内容や開示の必要性・緊急性、承諾を得ることの困難性等によって開示の違法性の有無・程度も異なります。」
●電話番号の場合は、慰謝料が認められたとしても数千円から1~2万円程度?
「例えば、電話番号は、病歴、信仰、年収、家族情報といった情報と比して、秘匿性の高い情報ではなく、プライバシーの要保護性は低いといえます。また、『親族が事故に遭い警察に教える』ケースでは開示の必要性・緊急性が高く、『共通の友人に教える』ケースであれば『本人の黙示の承諾』があったといえそうです。」
「『氏名・住所・電話番号』といった秘匿性の高くない情報については、開示による慰謝料の金額は低く、過去の裁判例から考えると、数千円から高くても1~2万円程度にとどまる可能性が高いです。」
篠田弁護士の解説では慰謝料請求が認められたとしても低額になる可能性が高いということだが、電話番号やメールアドレスなどの個人情報を本人の許可なく他人に伝達する行為は、違法性があるだけでなく、周囲からの信頼を損なう可能性も大きい。
「秘匿性が高くない情報なら慰謝料を支払うとしても金額が少ないから、痛手にはならないだろう」と考えるのではなく、勝手に情報を開示した行為によって何らかのトラブルに発展する可能性があることを認識し、本人の許可なく携帯電話番号などを安易に他人に教えることは控えたほうがよいだろう。