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隣家の梅の木からボトン、こっそり作った「ウメ酒」がうめー ホントはダメ?
写真はイメージです(yamasan / PIXTA)

隣家の梅の木からボトン、こっそり作った「ウメ酒」がうめー ホントはダメ?

ご近所トラブルの1つが、庭やベランダの生い茂った植物をめぐるもの。しかし、関東在住のオキノさんの場合、事情は異なるようだ。オキノさんの隣家の庭には、立派な梅の木がある。毎年6月ごろになると、その木には梅がたわわに実る。

「樹齢はどのくらいかわかりませんが、枝も私たちの庭に届くほどの大きな木です。そのため落ち葉などで困ることもあるんですが、梅の実がポトンと落ちてくるのを、家族全員、楽しみにしています」(オキノさん)

というのも、その梅で毎年、梅酒を作るからだ。大体、1リットル分くらいの梅酒を作ることができるほど、収穫できるという。

「お隣さんはノーコメントです。落ちてごめんなさいとも言われないくらいですから、私たちが収穫しているのも知らないふりです」とオキノさんは言う。

しかし、元はといえば、隣家の木から落ちてきた梅だ。オキノさんの行為が、法的に問題となる可能性はないのだろうか。

●敷地内に落ちた梅…食べたらダメ?

瀬戸仲男弁護士は、「原則として、隣家の木から落ちてきたものは勝手に食べてはいけない」と指摘する。

「まずは、隣家の梅の樹から自分の敷地に伸びてきた枝の果実(梅)は誰の所有物なのか、を検討しましょう。

果実の所有権について、民法89条1項は『天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する』と規定しています。梅の樹が『元物』で、梅の実が『天然果実』ですね。

隣家の梅の樹から自分の敷地内に伸びてきた枝の梅を『収取する権利』を有しているのは、やはり梅の樹の所有者(隣家の人)です。民法206条は『所有者は…自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する』と規定しており、この『収益』とは、果樹から生じる天然果実を取得する意味を含みます。

よって、梅の樹の所有者が梅を『収取する権利を有する』ことになります。そのため、隣家から自分の敷地内に伸びてきた梅の樹の枝についているからといって、その梅を勝手に消費してはいけません。その梅が枝から地上に落ちても、勝手に食べるなどしてはダメです」

●梅が落ちたことを隣家の人に伝えてみよう

では、どうしたらよいのだろうか。瀬戸弁護士は、次のように説明する。

「法理論上は、自分の敷地内に隣家の人の所有物(梅の実)があるわけですから、自分の敷地の所有権が梅の実によって侵害されていることになります。ですので、その侵害の回復、具体的には、梅の実の回収(片付け)を隣家の人に要求することになります。

これは、講学上『物権的請求権』の問題として、法学部の学生諸君も授業で習う論点です。

当事者双方の請求権が競合する問題(隣家の人は『梅を返せ』と言い、こちらは『梅をどかせ』と言い、どちらがアクションを起こすべきか、という問題)ですが、具体的には、侵害状態の回復のための費用をどちらが負担するのかという『費用負担』の問題になります。

梅の実ではピンとこないかもしれませんが、自然災害によって(つまり、当事者の帰責性がない状態で)隣地の塀などがこちらに倒れてきた場合などに問題になりますね」

法理論的には難しい問題があるようだ。しかし、現実的には落ちている実をお互いに放置するわけにもいかないだろう。

瀬戸弁護士は「梅が落ちたことを隣家の人に伝えてみましょう」とアドバイスする。

「もし、隣家の人が『どうぞご自由に処分してください』などと言った場合は、両者の間に贈与契約が成立していると解釈して、梅の所有権がこちらに移転すると考えられますので、自由に処分して良いでしょう。おいしい梅酒が出来上がったら、隣家の人にもおすそ分けしてあげてはいかがでしょうか」

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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