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コロナで売上5割減、飲食店「賃料支払えない」と悲鳴…救済策は?
閑散としている赤羽の飲み屋街(2020年4月11日、弁護士ドットコム撮影)

コロナで売上5割減、飲食店「賃料支払えない」と悲鳴…救済策は?

新型コロナウイルスの影響で、売り上げが激減した飲食店が、賃料の支払いに困り果てています。弁護士ドットコムニュースのLINEにも「最悪店を閉めることを考えている」と話す男性の声が寄せられました。

●時短営業で赤字に、のしかかる賃料

三重県鈴鹿市で飲食店を経営する男性(44)は、いつもは10時から23時まで営業していましたが、4月から11時から15時、17時から20時半と短縮しています。その結果、4月の売上は昨年比で5割ほど減り、夫婦の給与を抜いても180万円の赤字予想となっています。

男性は大家に毎月、賃料の減額のお願いをし、来月分から半年間20%減額をしてもらいました。しかし、この先どうなるかも分からず、不安を抱えています。

国土交通省は3月31日、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難なテナントに対しては、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置を検討するよう不動産関連団体に要請をしました。

賃料支払いを減免・猶予した場合の支援策についても、発表されています

とはいえ、不動産を所有する家主やオーナーも、その賃料で生活しています。では、このコロナ禍において、双方ともにどのように対処すべきなのでしょうか。不動産問題に詳しい瀬戸仲男弁護士に聞きました。

●賃料減額や支払い免除「法的な義務ではない」が…

ーー瀬戸弁護士の元にもコロナに関連した不動産の相談はきていますか

私の事務所にも、両方の立場から相談が寄せられています。

賃借人(借主)の立場からは「賃料の減額や、支払いの猶予はできないのか」という相談がほとんどです。

賃貸人(貸主)の立場からは、「賃借人からの減額や支払い猶予の要求に応じなければならないのか」という相談もあります。

その他には、「先行して(1月や2月に)賃貸借契約を締結して、引き渡し・利用開始を後(4月や5月から)にする予定だったが、コロナ騒動が原因で経済的に苦しくなりそうだから(あるいは、テレワークをやってみたらうまくいったので新たに部屋を借りる必要がなくなったから)借りるのをやめたいとキャンセルされて困っている」という相談も複数件あります。

ーーコロナ禍において、減額や支払い免除は法的な義務なのでしょうか

結論から言うと、法的義務ではありません。

当たり前のことですが、約束は守らなければいけませんね。これを法的な表現で言うと「契約の拘束力」(契約は守られなければならない)と言います。

いったん契約行為を行うと、その契約内容に拘束されます。契約者の一方が勝手に契約内容を変えることができてしまったら、誰も契約というものを信頼できなくなって、われわれの経済活動・社会活動などが成り立たなくなります。

なお、法律のテキストでは「事情変更の原則」という法理が説明されています。これは「契約の内容は経済的・社会的事情の変更に応じて変更されるべきである」とする「原則」ですが、しかし、この「原則」が適用される例はほとんどないと言ってよいでしょう。

●減額するなら「期間・期限を明確に」

ーー法的義務でないとしたら、今回のような新型コロナの事態では、借主・貸主共にどのような対応が望ましいのでしょうか

貸主・借主の双方にとって良いWin・Winの解決のためにはどうしたらよいのか、悩ましい問題です。

貸主にとっては「契約どおりに賃料を支払ってほしい。支払えないならば出て行ってほしい」と思うかもしれませんが、出て行った後に新しい借主が現れる可能性は現状では低いのではないでしょうか。

借主にとって、いったん明け渡して、今回のコロナ禍が収束して危険性がなくなるまで待っても、新たに店舗を借りて事業を再開するには多大な資本・労力などが必要ですが、中小の事業者にそのような体力が十分にあるとは考えにくいところです。

結局、現状のまま(借りた状態のまま)で、経済が復活して資金が回るまで、両者が協力するよりほかにとるべき途はないのではないように思われます。

貸主・借主それぞれ事情にもよりますが、双方が合意できる範囲で「減額」(一部免除)できるならば、それをやってみるとよいでしょう。ただし、減額の期間・期限を明確に決めておかなければ、後々別のトラブルに発展しますので注意しましょう。

減額が難しい場合には、賃料の一部を免除するのではなく、一部の支払いを先延ばしする方法でも良いでしょう。先延ばしした賃料の支払い方法(たとえば、何年何月分から賃料に何円を加算して分割して支払う方法など)も明確に決めておきましょう。

●公的な救済策が必要

ーー賃貸契約書に「天変地異」の場合について賃料減額や免責の規定があった場合、今回の新型コロナは該当するのでしょうか

「天変地異」とは「天」や「地」が含まれていることからも明らかなとおり、自然災害のことですね。台風、地震、津波、火山噴火などの場合を指します。今回の「コロナ禍」が「自然災害」に該当するか否かは、即断できない問題です。

賃貸借の目的物である建物が自然災害で壊れた場合は「天変地異」だと考えられそうですが、今回のコロナ禍では、建物そのものには何の問題も生じていませんね。

貸主には、目的物を使用させる義務がありますが、借主の経営成績についての責任がないことは当たり前のことです。

借主の窮状に配慮するあまり、貸主の義務違反がない場合に、賃料が当然に減額される(貸主に対して減額を強制する)と考えるのは、長い目で見れば、健全な社会秩序・経済秩序を破壊する恐れがあるようにも思えます。

その意味で、今回の公的な救済策のように、政府(国家)が一時的な特別の措置(賃借人が借りた融資金の一部を補填する方法など)として行うというのが正解でしょう。

●契約どおりに行動するのが基本

ーーすでに賃貸借契約を終え、引き渡し待ちの段階で「借りるのをやめたい」と言われた場合は、どう考えたらよいでしょうか

賃貸借契約を締結したからと言って、必ず引き渡しを受けなければならないという強制力はありません。引き渡し前にキャンセル(解約)できることを賃貸借契約書の条項に盛り込むことは可能です。

問題のポイントは、賃貸借契約の中身として、引渡し前のキャンセル(解約)の場合であっても「違約金」が発生することになっている場合には、その違約金の支払い義務を借主が負担することになるという点です。

一方で、借主としては、「まだ使用してもいないのに違約金なんてやめてほしい」と思うかもしれません。

しかし、他方で、貸主としては、「他の競合顧客を断って御社と契約したのに、一方的な理由でキャンセルされたら困る。新たな顧客を探す労力・費用が必要になるし、契約どおりに違約金を支払ってほしい」と思うでしょう。

どちらの言い分も事情としては分からないでもないですが、いったん契約した以上、契約どおりに行動するのが基本です。契約の内容(違約金支払い義務)を前提としたうえで、協議して折り合える点があれば和解するように、双方が努力すべきであろうと思います。

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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