牛丼チェーン「吉野家」の会社説明会に申し込んだ日本国籍の大学生が、外国籍と判断されて説明会の参加をキャンセルされたというツイート(現在は削除)が5月、SNSで話題になった。
弁護士ドットコムニュースの取材に対し、吉野家を運営する吉野家ホールディングスは、外国籍を理由に予約をキャンセルした理由について「技術・人文知識・国際業務によるビザの取得は非常に困難で、内定取り消しをせざるを得なくなったことが一定程度ございました。ビザの取得をできず内定を取り消された方の心象を慮るあまり、外国籍の方は新卒の会社説明会のご応募をいただいても参加をやむなくお断りしておりました」と回答した。
吉野家ホールディングスが募集したのは、総合職(店長職)だ。そもそも今回のツイートの投稿者は日本国籍だったとみられるが、外国籍であった場合、店長職で就労ビザの取得は本当に難しいのか。法務省に聞くと「個別の業務を見ないと正確なことは言えないが、技術・人文知識・国際業務、または特定活動46号として認められることはありうる」という。外国籍の就労ビザの制度を調べた。(ライター・国分瑠衣子)
●留学生は高度人材の在留資格「技・人・国」に変更するのが一般的
日本の大学や大学院を卒業した留学生が、卒業後に日本の会社に就職を希望する場合、在留資格を「技術・人文知識・国際業務」(技・人・国)に変更するのが一般的だ。「技・人・国」は専門的な技術や知識がある「高度人材」の在留資格で、理学、工学、自然科学の分野や、法律学や経済学、社会学といった専門的な知識がある活動が対象になる。
出入国在留管理庁のサイトによると、機械工学などの技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者などが当てはまる。在留期間は3カ月、1年、3年、5年だ。2021年6月末の時点で「技・人・国」の在留資格者数は約28万人で、在留外国人全体の10%ほど。国別で見ると、中国が最も多く約8万6000人、ベトナムの約6万4000人が続く。
●2019年にできた「特定活動」で、飲食店の接客など幅広い業務が対象に
ただし「技・人・国」の在留資格は一般的なサービス業務や、製造業務などが主な活動になるものには認められず基準が厳格だった。このため留学生がより幅広い業務で日本の企業に就職できるように、法務省は2019年5月に告示を改正した。
これが「特定活動(告示46号)」だ。日本語を主体的に使う業務で、飲食店や小売店などで働くことを想定した活動も含まれる。在留期間は最大5年。2021年6月末時点で、特定活動の在留資格者は約11万2000人いる。
特定活動のガイドラインの具体的事例を見ると、小売店の仕入れ、通訳を兼ねた接客販売業務、ホテルや旅館で外国人への通訳(案内)を兼ねた、ベルスタッフやドアマンとしての接客、タクシードライバーなど幅広い。
飲食店の場合は、店舗管理業務や通訳を兼ねた接客業務を行うことは可能だが、厨房で皿洗いや清掃だけを行うなど単純労働は特定活動として認められない。
●吉野家について法務省「『技・人・国』も『特定活動』もどちらもありうる」
今回、吉野家が募集した総合職(店長職)は同社が説明したように本当に「技・人・国」に該当しないのか。法務省の担当者は「個別の業務内容を見ないと、正確なことは申し上げられません」と前置きした上で、「吉野家のような飲食店で、店舗管理業務に絞り、アルバイトへの指導などを行う店長職であれば、技術・人文知識・国際業務で認められる活動内容かと思います。ただ、シフトに入り牛丼を提供したり接客したりする活動が中心ならば、特定活動のほうが親和性が高い。業務を想定すると技術・人文知識・国際業務と特定活動のどちらでもありうると考えています」と話す。
●外国籍の社員登用に本当に積極的なら、「門前払い」でいいのか
取材をした結果、日本の大学や大学院を卒業した留学生が、吉野家の総合職(店長職)に就く場合、就労ビザをとることは「非常に困難」とは言えなさそうだ。
日本を代表する大企業である吉野家が、制度についての理解が不十分で、そのような対応をするとは、にわかには考え難いが、認められる可能性がある以上、「門前払い」は望ましくないのではないか。
ましてや、吉野家ホールディングスは、外国籍の社員の登用について、サイトでも積極姿勢を示している。今回の炎上は、日本国籍の大学生への対応が問題視されたが、外国人留学生全般への対応も考え直すべきだろう。