日本郵便は1月下旬、EMS(国際スピード郵便)を利用して、日本から中国に発送した「iPhone」や「iPad」が受け取り主のもとに届かなかったり、中身が抜き取られたりするケースが増加していると発表した。昨年秋ごろから今年にかけて「iPhone」や「iPad」が届いていないとして、顧客から月100件ほどの調査の請求があるという。
このような事態を受け、日本郵便は、iPhoneやiPadを中国へ送るときは、航空通常郵便か航空小包を「保険つき」で利用することを勧めている。だが、そもそも、郵送の途中で荷物が紛失したら、郵送業者の責任ではないのか。
もし「EMSで送った荷物が盗難や紛失にあった」場合、送り主は、日本郵便から賠償を受けることはできないのだろうか。契約法にくわしい吉成安友弁護士に聞いた。
●契約はどうなっている?
「賠償してもらえるかどうかは、荷物を送る人と運送業者の間で、『どんな契約が結ばれていたか』によります」
いちいち、荷物を送るときに、運送会社と契約内容を決めなければならないのだろうか?
「荷物を送るたび、話合いをして、契約書を交わす、というのは大変ですよね。
実はそうした場合、契約内容は、あらかじめ『約款』で定められていることが多いのです。
たとえば、日本郵便のEMSの契約内容は、同社の定めた『国際郵便約款』に記されていて、利用者はこの約款に従って、郵便サービスを利用していることになっています」
約款とは、運送や保険など大量の顧客と取り引きする際に結ばれる定型的な契約条項のことだ。郵便に関する約款には、賠償について、どう書かれているのだろうか?
「国際郵便約款を読むと、EMSの場合、郵便物が届かなかったり、中身が盗まれていた場合、一定の額内で賠償が受けられると書いてあります。
ただ、あらかじめEMSを差し出す際に『損害要償額の申出』をしておく必要があります。損害要償額が2万円以上だと、額に応じて追加費用がかかりますが、もし申出をしていないと、2万円までしか賠償されません。
賠償の額は、中身の実際の価格を超えない範囲で、最高限度は200万円となっています」
きちんと申出をしておけば、200万円までなら賠償を受けられるわけだ。
日本郵便の担当者に手続きの流れを聞くと、もし荷物が期限内に届かなかった場合、送り主は、日本郵便に荷物の行方の調査を請求する。その後、荷物の『亡失(紛失)』と認められれば、日本郵便から損害賠償が支払われるようだ。
●約款に従わなければならないの?
ところで、業者が勝手に決めた「約款」に、利用者は従う必要があるのだろうか?
「約款は、定型的で大量に行われている取引を効率化するために合理的ですから、特に反対の意思表示をしていない場合は『約款による意思』で契約したと推定する、という判例があります」
約款を細かくチェックしている人はあまり多くなさそうだが、利用者にとっても、約款はかなり重要な存在と言えそうだ。
「民間の宅配便で送った約400万円の宝石が紛失したケースですが、約款で『責任限度額は30万円』となっていたことから、宅配便業者に限度額以上の損害賠償を認めないという判断を、最高裁が下したケースもあります。
最高裁は平成10年に出したこの判決で『宅配便は、低額な運賃によって大量の小口の荷物を迅速に配送することを目的とした貨物運送であって、その利用者に対し多くの利便をもたらしている』と評価しています。
そのうえで、利用者が『一定の制約を受けることもやむを得ない』として、賠償限度額の限定は『運賃を可能な限り低い額にとどめて宅配便を運営していく上で合理的』などと指摘しています」
たしかに、そのほうが合理的なのは分かるが、消費者にとって一方的に不利な内容が書かれていたら困ったことになりそうだ。
「そうですね。さきほどの宅配便のケースでも、無条件に約款が有効とされたわけではありません。その約款が有効かどうかは、個別に見ていく必要があります。
たとえば、約款の内容が消費者契約法に反するような場合には、無効となるでしょう。
また、現在行われている民法改正に向けた議論でも、消費者保護の観点から約款についてルール整備が話し合われています」
吉成弁護士はこのように指摘していた。