「ドアが閉まります」「お荷物をお引き下さい」。鉄道の車内アナウンスのセリフをテロップで流し、運転士や車掌の気分が味わえる。そんなユニークなカラオケが人気を博している。
配信しているのは、業務用カラオケ事業などを営むエクシング社。「京浜急行電鉄」バージョン、「東武鉄道東上線」バージョンに続き、このほど「東京メトロ丸ノ内線」バージョンの配信もはじまった。
鉄道のアナウンスというと、独特の語り口で「モノマネ」のネタにされるほど特徴的なものもある。お笑いコンビ「中川家」の礼二さんなど、路線別に細かい特徴をとらえてモノマネをする人もいる。
それだけ特徴的なものだということは、鉄道のアナウンスが著作権法で保護されることはないのだろうか。アナウンス内容を文字化してネット上にアップしたり、自作のアナウンス動画を投稿したりしたら、著作権侵害ということになるのだろうか。著作権の問題に詳しい甲本晃啓弁護士に聞いた。
●定型的なアナウンスは「創作性」が認められない
「結論から言えば、鉄道のアナウンス内容をネットで配信するなど行為は、著作権を侵害することにはならない考えられます」
甲本弁護士はこのように述べる。なぜだろうか。
「前提として、著作権法で保護されるためには、鉄道のアナウンスに『創作性』が認められる必要があります。『創作性』とはオリジナリティです」
鉄道のアナウンスに、創作性が認められる可能性はあるのか。
「乗務員が独自に創意工夫を凝らして考えたアナウンスであれば、創作性が認められる可能性はあると思います。
たとえば、ネット動画で有名な、箱根登山鉄道の落合車掌のアナウンスです。落合車掌は、運行中に軽妙な語り口で現地の魅力を伝え人気を博しました。
『噺家の語りを聞いているようだ』といった賞賛の声が寄せられたほどです。そこまで独創的なアナウンスであれば、『創作性』が認められる可能性もあるのではないかと思います」
一般の鉄道のアナウンスについてはどう考えればいいのか。
「一般の鉄道のアナウンスは、次駅の案内、乗換や行先、到着時刻の案内、『お忘れ物に注意ください』などの注意喚起などでしょう。
こうした定型的なアナウンスの内容は、誰が表現してもほぼ同じ表現になりますので、創作性は認められにくいでしょう。
したがって、一般的な路線のアナウンスは、著作権法の保護対象にはあたらないと考えられます。よって、自作の鉄道アナウンス動画をネット上に公開するなどしても、著作権侵害などの問題は生じないと考えます。
著作権の保護対象ではない定型的なアナウンスは、誰でも自由に二次利用できます。実際、『SUPER BELL"Z』というテクノポップ・グループは、鉄道のアナウンスをアレンジして歌詞の一部として組み込んだ楽曲を制作しています。
鉄道ファンの間では非常に有名です。面白いので一度聞いてみてください」