「こんなの原作と全く違う!」。好きな漫画や小説の実写映画などを見て、そう叫びたくなった人もなかにはいるかもしれない。あるアニメファンによると、「制作陣が原作に敬意を払っていることが伝わる作品もあれば、そうではないのではと疑わざるをえない作品もある」という。
ヒット作となった漫画などが実写化されるケースは珍しくはない。今年3月には、漫画やアニメで人気を博した『機動警察パトレイバー』の実写化が発表されて話題になった。ファンたちは胸を躍らせながら公開日を待つことになるが、いつも彼らの期待通りになるとは限らないだろう。そんな作品に対して、厳しいファンたちは「原作レイプ」と揶揄することもある。
たしかに、作品を長年愛してきたファンたちにとって、期待を裏切るような派生作品は精神的な苦痛を受けるかもしれない。では、期待外れなものを作った制作陣に対して、ファンたちは慰謝料を請求することはできないのだろうか。また、せめて目に触れないように「公開差し止め」を求めることはどうだろうか。南部朋子弁護士に聞いた。
●ファンの慰謝料請求は認められない
「原作のファンにとっては残念ですが、原作の派生作品がファンの期待していたものではなかったとしても、その点を理由に派生作品の制作陣に対する慰謝料の請求が認められることはないでしょう。
また、ファンが派生作品の公開を差し止めることも認められていません。原作の著作権者が認めた派生作品であれば、著作権法上は問題がないということになります」
南部弁護士はこのように結論を先に述べた。そのうえで、マンガのキャラクターの立体模型(フィギュア)化について、裁判所が触れた部分を引き合いに出した。
「裁判所は『原作者がキャラクターに対して有するイメージの全体像がすべて紙面に表現されるとは限らず、表現されない部分は読者が自由に想像することに委ねられている』としています。
そして、『原作者の具体的な指定がない以上、模型等の制作者が原画のイメージや読者の人気等をも考慮して独自の解釈の下にキャラクターのサイズやバランス等を新たに創造することとなる』と指摘しています」
このように、立体模型という似たケースでは、原作で表現されていない部分について「独自解釈の自由」を尊重した考え方になるようだ。では、それを実写映画のような派生作品に当てはめるどうなるのか。南部弁護士は次のように解説する。
「原作のファンの期待を裏切るような派生作品も、原作で表現されない部分を主な対象とした制作陣の創造行為の結果といえますが、それによって、原作で表現されない部分を読者が自由に想像することができなくなるわけではありません」
「自分なりの原作のイメージを大切にし、原作を楽しむことはできるのです」と南部弁護士は付け加えた。たとえ、原作のファンの裏切るような派生作品が作られたとしても、慰謝料や差止め請求権が認められるわけではないということだが、むやみやたらと怒るのではなく、「一つの解釈」として派生作品を楽しむのもよいのではないだろうか。