人気テレビドラマ「半沢直樹」のワンシーン。主人公の半沢直樹と悪役の大和田常務に間に挟まれて、釈明を続けるのは、「号泣会見」で話題の野々村竜太郎・兵庫県議だった――。こんな驚くべき動画が動画サイトにアップロードされて、反響を呼んでいる。再生回数は7月4日16時30分時点で、18万回に迫っている。
既存の画像や動画、音声などを個人が再構成したものは「MAD」と呼ばれ、これまでも多くの作品がネットで公開されているが、野々村議員の号泣会見を報じるニュース動画はインパクトが大きいため、格好の素材になっている。あるMADの制作者は「こんなに使いやすい素材はない」と張り切っていた。
今回は、さまざまな種類の「号泣MAD」が次々と公開されている。たとえば、「千と千尋と野々村議員の金隠し」と題した作品は、映画「千と千尋の神隠し」の一場面を活用。主人公が泣くシーンに野々村議員の号泣音声を組み合わせたものだ。
ほかにも、レミオロメンの代表曲「粉雪」に野々村議員の叫び声をつなぎあわせた動画「粉雪歌いながら潔白主張」や、号泣の音声を加工して、F1のエンジン音のようにした動画「野々村議員の号泣会見をF1っぽくしてみた」など、作品は多種多様だ。
しかし、テレビ番組や音楽などを勝手に使ってMADを作ることは、法的にマズそうな気がするのだが、実際はどうなのだろうか。著作権問題にくわしい雪丸真吾弁護士に聞いた。
●勝手に改変すると、「同一性保持権」を侵害する?
「まず、野々村議員のニュース動画を使って投稿する場合、著作権法の問題があります。著作権者の許諾なしにネットに投稿すると、著作権のひとつである『公衆送信権』を侵害することになります。
さらに、野々村議員の『号泣』と組み合わせる素材として、テレビドラマや映画を使って投稿するのであれば、こちらも同様に『公衆送信権』の侵害になります」
「投稿」そのものに問題があるということだが、動画を組み合わせることには問題はないのだろうか。
「異なる動画を組み合わせることは、勝手に著作物を変えることを禁止する『翻案権』や著作者人格権の1つである『同一性保持権』を侵害することになってしまいます」
合成することにも問題があるということだ。さらに、タレントの画像を勝手に使うのであれば、「肖像権」の侵害にもなりそうだが、野々村議員は「公人」だ。公人の場合も「肖像権」侵害になるのだろうか。
「『公人』である議員が記者会見しているニュースを使うだけであれば、『肖像権』の侵害にはあたらないものと考えられます。ただし、写真を加工した場合には、違法性を問われる可能性があります」
結局、「MAD」には、さまざまな法的課題が存在しているといえそうだ。だが、しばらくこの勢いは止まりそうにない。「MAD」で名俳優たちにもひけをとらないインパクトを見せつけた野々村議員は今後、どんなメッセージを発信するのだろうか。