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「騒音計」を持ち込み、午前3時まで測定することもーー弁護士が語る近隣騒音トラブル
騒音問題にくわしい村頭秀人弁護士

「騒音計」を持ち込み、午前3時まで測定することもーー弁護士が語る近隣騒音トラブル

騒音問題は身近なトラブルの代表例だ。工場の作業音やマンションの隣室の騒ぎ声に不快感を覚えたり、逆に自室の音楽がうるさくて隣人に苦情を言われたりしたことはないだろうか。被害者にも加害者にもなりうるこの問題に遭遇したとき、穏便に解決するにはどうすればよいのだろうか。東京都環境審議会の委員であり、騒音問題にくわしい村頭秀人弁護士に実情を聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

●できるだけ裁判を避け、話し合いで解決

「最近は、マンションの隣合わせの部屋や上下の部屋の間でトラブルになるケースが多い傾向にあります」

人の歩く音や掃除機が壁に当たる音、物を落とす音、家具を動かす音など、日常生活でよく発生する「生活音」が問題になるケースが増えているという。

こうした騒音の紛争について、村頭弁護士は、できるだけ裁判を避け、話し合いで解決する方針で臨んでいるという。どうして裁判を避けるのだろうか。

「裁判で勝ち負けをはっきりさせた場合、双方に感情的なしこりやわだかまりが残ることが多々あります。そうすると、関係を修復することはまず困難です。話し合いか、裁判になっても和解で解決すれば、100%満足とはいかなくても、両者納得の上で決着がつきます。

また、被害者側が本当に求めているのは金銭ではなく、騒音で苦しめられている状況からの脱却です。たとえ被害者側が裁判で勝っても、発生源の側に対して強制的に騒音対策を行わせることは難しいのが現状です。本当の意味での解決に時間がかかるようでは、裁判の意味が問われます」

●客観的に記録するため、測定の模様をビデオカメラで撮影

実際の被害相談には、どのように対処するのか。たとえば、工場から発生する振動・騒音に近隣住民が苦情を訴えたケースでは、測定調査によって発生源を特定した後、工場側が防振ゴムを取り付けるなどの対策を講じることを住民に説明した。その結果、双方は納得し、裁判にいたることなく紛争は終結した。

また、スーパーマーケットから発生する低周波音で、スーパー側と住民側が争った案件もあった。このときは、低周波音が業務用の冷蔵・冷凍庫やエアコンの室外機から発生していることを特定。これらの発生源を別の場所に移すことで双方が合意し、和解に持ち込むことができた。

騒音問題でこじれるのは、最初に被害者が苦情を訴えたときに、発生源側がまともに取り合わなかったり、「それはあなただけでしょう」と突っぱねるなど、不適切な対応を行った場合が多い。

あるいは、あいさつをしない、ごみ出しマナーが悪いといった、発生源側の住民のふだんの行為が、騒音紛争の伏線になっていることもある。

「こうした伏線が、被害相談を受けた当初はわからないことが多いのです。面談を重ね、根掘り葉掘り話を聞いていくうちに、やっと過去に何があったのかがわかるのが普通です」。場合によっては、騒音だけではなく、これら伏線となっている問題も含めて解決にあたる必要もでてくる。

騒音にまつわる問題に直面した場合、どうすれば、できるだけ迅速かつ穏便に解決できるだろうか。

「隣人の騒音に対し、相手と直接話すと感情的にこじれることが珍しくありません。対立が深くなる前に、自治体の公害苦情処理担当部署や弁護士といった第三者にできるだけ早い段階で相談したほうが良いと思います」

では、どのような形で騒音を測定するのだろうか。村頭弁護士は次のように語る。

「私は自分で低周波音も測定できる騒音計や振動計、レベルレコーダ(騒音や振動を紙の上にグラフの形で記録する装置)を持っていますので、たいていの場合、自分で測定します。装置一式は非常にかさばって重いので、旅行用スーツケースに入れて運びますが、電車で移動するときは苦労します。遠方で測定するときは、車のトランクに積んで行くこともあります。

測定するときは、測定状況を客観的に記録するため、測定の模様をビデオカメラで撮影します。夜の騒音が問題になることが多いので、夜間に測定することが多く、終電で帰ったこともあります。千葉で測定したときは、車で行って、午後10時ごろから翌日の午前3時ごろまで測定し、その後2~3時間仮眠して、早朝に帰ったこともありました」

●案件数の少ない「感覚公害」問題のエキスパートに

村頭弁護士が騒音や低周波音、振動、悪臭といった「感覚公害」に関わりはじめたのは、東京弁護士会の公害・環境特別委員会に入ったことがきっかけだった。公害・環境問題に、特別の思い入れや関心があったわけではないそうだ。しかし、委員会を通じて知識を深めるうちに、この感覚公害という分野に精通した裁判官、そして弁護士がめったに存在しないことがわかってきた。

たとえば、交通事故のように訴訟の数が非常に多い分野は、専門性の高い裁判官と弁護士も多く存在する。ところが感覚公害の場合、裁判官だと一生のうちに数件程度しか担当しないほど、案件そのものの数が少ないという。

それでも、この問題に悩み、苦しむ人々は存在する。村頭弁護士は、委員会での活動や弁護士業務を通じて、騒音・低周波音・振動・悪臭問題のスペシャリストを目指してきた。

2011年の春には、書籍「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」を出版。すると、相談者が首都圏以外の地域からも訪れるようになった。目下、悪臭問題の本の出版についても検討を進めている。

マスコミからも、コメントを求められるようになり、東京都の環境確保条例が改正され、子どもの声が騒音の規制基準の対象から除外された際には、規制のあり方などについて専門家としての見解を表明した(弁護士ドットコムニュースでも「子どもの声は「騒音」なのか――東京都「環境条例」をめぐる議論をどう見る?」http://www.bengo4.com/other/1146/1307/n_2229/を掲載)。

騒音問題に関わりはじめて十数年がたった。村頭弁護士は「これからも最先端の知識を身につけ、この分野の第一人者になりたいと考えています」と語る。感覚公害で相談に訪れるマンションの住民が多いことから、今後はマンションに関わる法的トラブルの相談・解決についても力を入れるそうだ。

村頭弁護士の動画はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=q5318ImdI6Q

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

村頭 秀人
村頭 秀人(むらかみ ひでと)弁護士 畑法律事務所
平成12年弁護士登録、平成21年~24年東京弁護士会公害・環境特別委員会委員長、平成25年4月より東京都環境審議会委員。著書「騒音・低周波音・振動の紛争解決ガイドブック」(慧文社、平成23年)

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