ブログ「余命三年時事日記」に端を発した大量懲戒請求について、東京・横浜両地裁は、4月11、12日、被告1人あたり弁護士3人に対して慰謝料30万円ずつの支払いを求める判決を出した。
判決の中では、今回のブログが契機となった懲戒請求について「普通の注意」を欠く行為として不法行為に当たるとの判断が示され、弁護士の懲戒請求にあたっては、理由の有無の調査・検討を求めている。
●懲戒請求時に必要な「普通の注意」とは
損害賠償請求を認める上で争点の1つとなったのは、今回の懲戒請求が不法行為に該当するかという点だった。2007年の最高裁判例では、懲戒請求が根拠を欠く場合に「(根拠を欠くことを)知りながらまたは通常人であれば普通の注意を払うこと」で回避できるのに、懲戒請求をすることが不法行為に該当すると判示している。
東京・横浜両地裁は、各弁護士のツイッターでの発信が懲戒請求事由に当たらないと判断した。その上で、横浜地裁は、被告が「懲戒理由の有無を調査、検討した形跡は見られず」と指摘。東京地裁も、被告が懲戒事由の有無について「調査および、検討したり弁護士に相談したりした形跡は一切なく」としている。
今回の2つの判決では、懲戒請求をするにあたり必要な「普通の注意」として、理由の有無の調査・検討を求める内容だった。ブログの内容のみを根拠とし、ブログが準備した雛形を利用して、十分な事実確認をしないまま懲戒請求をかけるような行為は、「普通の注意」を欠く行為として判断されたといえる。
また、横浜地裁判決では、懲戒請求制度の意義にも言及。弁護士への懲戒請求は誰でも可能であること定めた弁護士法の条文について「請求者に対して恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定ではないことは明らか」としていて、「国民の権利」(横浜地裁での被告)との主張を退けた。
●懲戒請求の弁護士実務への影響
弁護士らは、懲戒請求の実務への影響が小さくない点も主張してきた。弁護士実務への影響については、横浜地裁判決が詳しく言及している。
まず、懲戒請求がなされたことが知られただけでも「業務上の信用や社会的信用に大きな影響を与えるおそれがあることは否定できない」。さらに反証活動への負担も認めた上で、弁護士会における手続きが終了するまでは所属する弁護士会の変更や、登録の取り消しができない点も「非常に大きな身分制約が課される」とした。
横浜地裁は、利益相反の問題にも言及。自身だけでなく「同一の事務所に所属する他の弁護士の受任事件についても」利益相反の確認が必要となる点を指摘した上で、「現実の実務負担の増加という損害が生じていることが認められる」とした。
東京地裁判決では、弁明の負担など精神的苦痛がある点を指摘したのみで、弁護士実務への影響について詳しくは言及していない。
●請求の呼びかけ人と請求者の違い
また、横浜地裁の一部の被告は、元大阪府知事の橋下徹弁護士が、山口県光市の母子殺害事件の弁護団に、テレビを通じて懲戒請求を呼びかけたのに対して、不法行為を認めなかった判例を持ち出し、「不法行為に該当しない」と主張。
対して、横浜地裁は、損害賠償請求を求める相手が、呼びかけ人でなく、懲戒請求をした人そのものである点であることを指摘し「事案が異なる」と退けた。