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<美濃加茂市長事件>控訴審、弁護側と検察側の主張が平行線のまま結審へ
公判に臨む美濃加茂市の藤井浩人市長

<美濃加茂市長事件>控訴審、弁護側と検察側の主張が平行線のまま結審へ

学校プールの浄水設備導入をめぐり、業者から現金30万円の賄賂を受け取ったとして約2年前に逮捕・起訴され、一審で無罪判決を受けた岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に対する控訴審が続いている。5月23日の公判では、一審に続いて贈賄側業者の再尋問が行われ、業者はあらためて「20万円を藤井市長に渡したことを私の方から刑事に話した。1、2日後に10万円渡したことを思い出して話した」などと証言。しかし決定的な裏付け証拠はなく、現金授受を否定する弁護側と検察側の主張はまったくの平行線のまま、次回7月27日に結審する見通しとなった。(ジャーナリスト/関口威人)

●検察の迷走で半年ぶりに再開

起訴状では、藤井市長は美濃加茂市議時代の2013年4月、名古屋市内の浄水設備会社社長だった中林正善受刑者=15年1月に別件の詐欺罪などで懲役4年の実刑判決が確定し、服役中=から美濃加茂市内のファミリーレストランと名古屋市内の居酒屋で2回にわたって計30万円を受け取り、美濃加茂市内の中学校への浄水設備導入に関して便宜を図ったとされる。

藤井市長は13年6月の市長選で初当選。「全国最年少市長」として注目された1年後の14年6月24日に受託収賄などの疑いで逮捕、7月に起訴された。しかし、当時から一貫して「現金は一切受け取っていない」と無罪を主張、8月に保釈が認められると、取り調べで「早くしゃべらないと美濃加茂市を焼け野原にするぞ」とまで迫られたという捜査の理不尽さを訴えた。公務に復帰後、9月に始まった一審・名古屋地裁の初公判でも無罪を主張、弁護側は「詐欺事件での減刑を望む中林受刑者が、検察側との『ヤミ司法取引』によって藤井市長への賄賂をでっち上げた」冤罪事件だと主張、検察側と真っ向から対立する構図になった。

15年3月の判決公判で名古屋地裁の鵜飼祐充裁判長は、中林受刑者が2回目の現金授受を先に思い出し、1回目の現金授受についても核心部分であいまいな供述や不自然な説明が多いとして信用性を否定。藤井市長に無罪を言い渡した。

この判決を不服として検察側が控訴した二審は、同年8月に名古屋高裁で初公判を開廷。検察側は、中林受刑者の供述に信用性があるとして、新たに捜査メモなどの証拠採用を求めたが、裁判所側はこれを留保。中林受刑者の取り調べを担当した警察官と検察官2人の証人尋問は認められ、11月の2回目の公判では警察官の尋問が行われたものの、その半月後に尋問を予定していた検察官については、検察側が自ら証人申請を取り下げ、その後の期日が未定となるなど迷走状態に陥った。今回は裁判所と検察、弁護団の三者が非公開の協議を続けた末、争点となっている中林供述の信用性を確認するため、高裁が職権で中林受刑者の尋問を求めるという異例の形で約半年ぶりに再開した第3回公判となった。

●「悔しい」という検事に「控訴してほしくない」

丸刈りに真っ白なシャツという姿で法廷に現れた中林受刑者は、裁判官から始まって検察、市長の弁護人の順番に尋問を受けた。記憶があいまいだという部分は言いよどむこともあったが、饒舌に語る場面も多く、健康面に問題はなさそうだ。特に藤井市長の無罪判決が出た直後について、次のようにはっきりと語った。

「担当検事が拘置所に2、3回面会しに来て、『私は(藤井市長の無罪判決について)悔しい』と言っていた。私(中林)は裁判で自分の罪状についてすべて話した上でこういうふうに受け止められたのかと思い、悔しくも何ともなかった。自分の判決も出て粛々と刑を受けたいので『もう控訴してほしくない』と検事に伝えた」

その意に反するように裁判が続き、証人として召喚された中林受刑者は、大筋でこれまでの供述や一審での証言を繰り返した。

「詐欺事件についての厳しい取り調べが一段落し、雑談のように刑事と子どもの話をしだしたとき、自分はこんなんで子どもを大切にしているのかと感極まって泣いてしまった。そして藤井さんのことを私の方から話し始めた」

藤井市長についてはそれ以前から、浄水設備の事業について説明する中で「藤井さんには感謝していた」などと刑事に話していたという。現金授受については「涙の告白」を境に話し出すが、その後も刑事が「藤井さんのことをバンバン聞いてくるわけでなく、雑談の延長で聞いてくるようで、私も気を張って対応しなかった」という。

同席者の有無などの細部については会席時の支払い明細を見せられて、どのように現金を渡したかについては、当時の事業の資料を見せられ、「現金をカモフラージュしようと封筒に入れた」などと思い出していったと従来通りの証言。ただ、最初の「10万円」を思い出したのが、藤井市長とレストランで会う約束を取り付けるメールを刑事から見せられたからだと捜査段階で供述していたことを「覚えていない」と言ったり、市長と最初に出会った場所を思い違えていたりといった部分で記憶の混同は解消されておらず、検察側や弁護側からの尋問を通じてもあいまいさは残した。

●供述調書が事前に届けられていたことに弁護側が批判

一方、中林受刑者には本人の弁護人を通じて、市長の一審の判決文や、自身の捜査段階の供述調書が事前に届けられていたことも明らかになった。

これについて、市長側主任弁護人の郷原信郎弁護士は「今回は通常の一審での証人尋問とは異なり、高裁が事前の記憶喚起などを経ないで現時点での『生の記憶』を確かめるために実施されたもので、検察官の『証人テスト』や事前の詳細な資料提示はしないよう異例の要請までしていた。ところが、東京の弁護人から資料が送られたことで、結果として資料に書かれているような一審での証人尋問とほとんど同じ証言をしてしまい、今回の証人尋問の目的の大半が損なわれることになってしまった」と批判。藤井市長も「本当のことを話してくれると淡い期待を抱いていたが、一審の証言をなぞっただけで失望した」と閉廷後の記者会見で話した。

ただでさえ「消化試合」を見せられているような気分になるこの裁判。関係者のちぐはぐな対応でさらに消化不良の状態が続きそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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