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北海道の暴走車「一家5人死傷事故」 起訴された「危険運転致死傷罪」ってどんな罪?
写真はイメージです。

北海道の暴走車「一家5人死傷事故」 起訴された「危険運転致死傷罪」ってどんな罪?

北海道砂川市で6月、RV車と軽ワゴン車とが衝突するなどして、一家5人が死傷した事故。札幌地検は7月10日、5人に対する自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)で古味竜一容疑者(26)を起訴した。

報道によると、共犯とされている谷越隆司被告人が運転するRV車が、赤信号を無視して時速約135キロ〜150キロの速度で交差点に進入し、親子5人が乗った軽ワゴン車と衝突。事故の衝撃で投げ出された長男は、古味被告人のピックアップトラックに約1.5キロ引きずられ、死亡した。軽自動車に乗っていた他の4人は、3人が死亡、1人が重傷を負った。

2人は車でスピード競争をしており、札幌地検は赤信号の交差点に高速で突っ込んだ行為について共謀が成立すると判断した。また、共犯とされる谷越被告人の起訴事実にも、古味被告人がひき逃げした長男(16)の死亡が含まれている。

今回、起訴された「危険運転致死傷罪」とは、どんな犯罪なのか。刑事事件に詳しい中村憲昭弁護士に聞いた。

●自動車事故の加害者をどう処罰すべきか?

「かつては、自動車を運転して人を死傷させた場合、殺人や傷害の故意がある場合を除いて、『過失犯』として処罰していました。すなわち、業務上過失致死傷罪となり、その法定刑は5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金でした。

しかし、過失犯だとしても、悪質で危険な運転によって人を死傷させた事案では刑が軽すぎ、むしろ故意犯と同様に厳しく処罰すべきではないかとの声がありました。

そのため、刑法で新たに危険運転致死傷罪という『故意犯』の類型をもうけ、重く処罰できるようにしました」

中村弁護士はこのように述べる。

「しかし、刑法の危険運転致死傷罪では、危険運転行為に該当する行為を行っただけでなく、行為時において行為者に故意、つまり『危険運転をしている』という認識可能性が必要だったため、結局、過失犯としてしか処罰できない事例も多かったのです。

そこで、刑法上の危険運転致死傷罪に新たな類型を加えて処罰範囲を広げるとともに、『逃げ得』防止のための新たな罰則をもうけ、さらに刑法上の自動車運転過失致死傷罪も一緒にして、新たに独立した法律を作りました。それが自動車運転処罰法です。

自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪の法定刑は、ケガをさせた場合で15年以下の懲役です。死亡させた場合は最長で30年の懲役もあり得ます。

とはいえ、故意犯として処罰するためには、行為時において危険運転行為をしているという認識可能性が必要です。たとえば、飲酒等で正常な運転が困難な状態で車両を運転して人を死傷させた場合、事件当時にそのような状態であることを本人がわかっていなければなりません」

今回のケースでは、危険運転の認識はあったといえるだろうか。

「今回の事例での危険運転行為が何かはわかりません。ただ、防犯ビデオの画像や同乗者供述などから、赤信号無視が見落としではなく故意であることや、重大な交通の危険を生じさせる高速度運転をしていたことなど、運転者が危険運転行為であることを認識していたと証明できると捜査側は考えたのでしょう」

●共犯として起訴された意味とは?

2人の被告人が共犯として起訴されたことは、どんな意味があるのだろう。

「2人が共同正犯として逮捕されたのは、カーチェイスをしていたことで、危険運転行為も複数で行ったと考えたからです。

仮に2人が単独犯だったと仮定すると、最初の衝突によって死亡したのか、その後のひき逃げ行為によって死亡したのか立証できなければ、因果関係が不明だとして、いずれにも死の結果を負わせられないという不合理な結果になりかねません。

共謀による危険運転致死傷罪で有罪となれば、運転者2人に長男の死亡の責任を負わせることができます」

中村弁護士はこのように分析していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中村 憲昭
中村 憲昭(なかむら のりあき)弁護士 中村憲昭法律事務所
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。

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