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2014年10月23日 11時12分

「遺体写真」見て急性ストレス障害――裁判員の「心理的負担」どこまで配慮すべき?

「遺体写真」見て急性ストレス障害――裁判員の「心理的負担」どこまで配慮すべき?
予告なしに遺体写真を見せられれば、ショックを受けても無理はないだろう

あなたも選ばれるかもしれない裁判員裁判。もし、そこで凄惨な遺体の写真を見なければならないとしたら――。強盗殺人事件の裁判員裁判に参加したことで、急性ストレス障害(ASD)になったとして、福島県の60代の女性が国を訴えた裁判。1審の福島地裁は請求を棄却したが、原告の女性は10月11日、判決を不服として仙台高裁に控訴した。

報道によると、女性は裁判員を務めた際に、血の海になった殺害現場を映したカラー写真24枚や、犠牲者が絶命直前に119番した際の音声などを見聞きすることになった。女性はショックを受けて、幻覚などに悩まされるようになったとしている。福島地裁は、遺体写真を見たこととASDの発症に因果関係があると認める一方で、裁判員は辞任することもできるなどとして、「裁判員制度は合憲」と判断し、女性の訴えを退けていた。

突然、悲惨な事件現場の写真を見せられたら、誰だってショックだろう。裁判員に対して事前に、「あなたは遺体写真を見ることになりますよ」といった警告はないのだろうか。また、遺体写真を「見たくない」という理由で、裁判員を辞退することはできるのだろうか。春田久美子弁護士に聞いた。

●遺体写真」について事前に説明されるのか?

「今の制度では、事前に裁判員に対して、『遺体写真を見る可能性がありますよ』などと、説明することは義務づけられていません。

ただ、今回の裁判が起こされたことをきっかけに、東京地裁の裁判長たちが集まって話し合って、次の2つの方針を固め、最高裁を通じて各地の裁判所に伝えました。

(1)選任手続きの際に、遺体写真を見る可能性があると予告すること

(2)それによって候補者が不安を訴えれば、辞退を柔軟に認めること

とはいえ、『伝えただけ』なので法的拘束力はありません。裁判長が方針に従わず、事前に何も伝えないまま、いきなり遺体写真を見せることも、当然ありえます」

●見たくなければ「辞退」できるのか?

リアルな遺体写真を見ることにどうしても抵抗がある人は、少なからずいるだろう。そういう人は、『見たくない』という理由で裁判員を辞退することができるのか?

「裁判員になることで『本人や第三者に身体上、精神上または経済上の重大な不利益が生ずる』という規定にあてはまるなら、辞退できる可能性はありますが、残念ながら、『見たくない』という理由で辞退できるとは考えにくいです」

どうしてだろうか?

「裁判員向けに作られているパンフレットでも、辞退の例として『遺体写真を見たくないから』という理由は挙がっていません。

そもそも、『見たくない』人は誰でも辞退できるという制度になって良いのかという問題もあります。刑事裁判の原則は、『証拠に基づく裁判』。事実を直視して被害を正確に理解し、適正に判断するためには、たとえショッキングな写真でも見る必要があるといえるでしょう。

ただ確かに、裁判員の精神的な負担を考慮することも大切です。最近は、カラーの遺体写真の色調を変えてビビッド感を減らしたり、イラストに替えたり、見せる写真の枚数を減らすなどの工夫もされているようです」

春田弁護士は、「証拠に基づく裁判と、裁判員への配慮と、どちらを重視すべきか・・・。今回の裁判が問いかけている問題は深刻です」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

OLから裁判官に転身し、弁護士を開業(福岡県弁護士会)。本業の傍ら、小中高校生や大学生などの教室に出向いて行う〈法教育〉の実践&普及に魅力を感じている。2010年、法務省・法教育懸賞論文で優秀賞、2011年は「法教育推進協議会賞」受賞。NHK福岡のTV番組(法律コーナー)のレギュラーを担当。
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