回転寿司チェーン「スシロー」の店内で客による迷惑行為を撮影した動画がSNSで拡散した問題で、岐阜県警が醤油ボトルや湯呑をなめて元の場所に戻すなどの行為をした少年について、偽計業務妨害の疑いで書類送検する方針だと報じられている。
被害にあったスシローでは、客側からの謝罪を受けた後も「刑事、民事の両面から厳正に対処」すると発表した。軽い気持ちで撮影したものであっても、法的責任を問われる可能性があるということだ。
さらに、岐阜県警は動画の撮影者、交流サイト(SNS)上で最初に動画を拡散させた知人とみられる関係者についても、合わせて書類送検する見込みだという。
撮影者、動画をネットに流した知人は、共犯になるのか。本間久雄弁護士に聞いた。
●計画や相談に参加しただけで共犯になる
——今回のようなケースでは、撮影者や動画をネットに流した知人も共犯になるのでしょうか。
動画の撮影者やSNS上で最初に動画を拡散させた者については、醤油ボトルや湯呑をなめるといった実行行為を行っていないことから、偽計業務妨害罪に問えるのかが問題となります。
刑法60条は、「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯(みずから各犯罪の構成要件に該当する行為を行う者)とする」と規定しています。このことを共同正犯といいます。
判例は、2人以上の者が犯罪を実現するための謀議(計画や相談)をし、共謀者の一部の者のみが実行行為を行うような場合において、謀議に参加しただけで、実行行為を行っていない者についても、共同正犯の成立を認めています(最高裁昭和33年5月28日判決等)。
このことを共謀共同正犯といいます。直接実行行為を行っていなくても、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという点に着目して、共謀者の正犯性が認められています。
●重大な寄与があったかどうか?
——どのような場合に共謀共同正犯が成立するのでしょうか。
共謀共同正犯が成立するためには、(1)共謀(犯罪の共同遂行に関する合意)、(2)重大な寄与(共謀者が犯罪を実現する上で実行担当者と同程度の重要な役割を果たし、結果に対して重大な寄与を行った)、(3)共謀に基づく実行行為が必要となります。
今回のケースにおいては、(3)実行行為の存在は争いがないものと言えますので、(1)共謀と(2)重大な寄与があったかどうかが問題となります。
客が醤油ボトルや湯呑をなめる状況を動画で撮影し、それをSNS等で拡散すれば、スシローが各種問い合わせ等に対応せざるを得なくなり、業務が妨害されることにつながることから、(2)重大な寄与があったものと言えます。
(1)共謀があったかどうかは報道だけでは分かりませんが、少なくとも撮影者については、少年から醤油ボトルや湯呑をなめるから写して欲しいと言われたから撮影したものと考えられ、現場で共謀が成立したのではないかと推測されます。
●SNSに投稿した知人は店内にいたか?
——SNSに投稿した知人はどうでしょうか。
SNSに最初に投稿した知人については、現場で共謀に加わっていた場合は、共謀共同正犯が成立する可能性はあります。
ただ、スシローの店内におらず、あとでLINEやメール等で回ってきた動画を投稿した場合などの場合、共謀に参加したものと言えず、共謀共同正犯の成立は難しいのではないかと思います。
関係者はほとんどが少年であると報じられています。少年の場合、成人と異なり、ぐ犯(未だ犯罪行為には至らないが、不良行状が認められる場合)も、家庭裁判所による保護処分(保護観察・少年院送致等)の対象となります。
もし、偽計業務妨害罪の共謀共同正犯の認定が難しい場合、ぐ犯を理由とする保護処分が下される可能性があります。