エイズウイルス(HIV)に感染していることを知りながら、女性5人に乱暴したとして、強姦致傷や強姦などの罪に問われた40代男性の裁判員裁判が11月中旬、横浜地裁であり、男性に懲役23年(求刑懲役30年)の判決が言い渡された。
報道によると、男性は2012年7月に横浜市内の住宅に侵入し、20代女性を脅して強姦し、1週間のけがを負わせるなどしたとされる。判決では「感染させる可能性を認識しながら行為に及んだ」と犯行の悪質性が指摘されている。
今回の事件の被害者は5人ともHIVに感染していなかったということだが、精神的に大きなショックを受けただろう。一般論として、HIV感染を知りながら女性を強姦したら、刑の重さに影響があるのだろうか。刑事事件にくわしい岩井羊一弁護士に聞いた。
●犯罪に至るまでの事情が重視される
「刑の重さには、影響があります」
岩井弁護士はこう述べる。なぜ、影響があるといえるのだろうか。
「たとえば、暴行罪と傷害罪と傷害致死罪では、刑の重さが違います。これにみられるように、刑法では、その犯罪が(1)どんな状況や方法でおこなわれたか(2)結果はどうだったのか(3)故意があったのか、などによって、刑の重さに差が設けられています。
こうした刑法の考え方からすれば、ある事件の刑を決めるうえでも、犯罪のやり方や結果、動機、経緯など、犯罪の内容やそこに至るまでの事情が重視されます。強姦するだけでなく、病気を感染させる可能性もあるのであれば、量刑に影響を及ぼすといわざるを得ません」
●刑を重くするには限度も
では実際に、どの程度の影響があるのだろうか。
「それを考えるには、HIV感染がどのような病気であるか、感染する可能性がどの程度あったかという2つのポイントがあります。
まず、HIVに感染した後は、(a)感染初期(急性期)、(b)無症候期、(c)エイズ発症期の経過をたどるといわれています。もしエイズが発症すれば、非常に重大な病気だといえるでしょう。
一方で、厚生労働省のホームページによると、『抗HIV薬によってウイルスの増殖を抑え、エイズの発症を防ぐことで、長期間にわたり健常時と変わらない日常生活を送ることができる』とされています。つまり、HIVに感染したからといって、ただちに死亡するわけではありません。
HIVの感染確率は、『コンドームを使わないで挿入による性行為(膣性交、アナルセックス)を行った場合、0.1〜1%(100回に1回)くらい』とされています。したがって、1回の性交でHIVに感染する確率はそれほど高いとはいえません」
では、量刑に影響があっても、その程度は限定的なのか。
「HIVに感染させる可能性があることを認識していたとしても、その事情だけをもって、刑を重くするには限度があると思います」
岩井弁護士はこのように説明していた。