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学校あるある「皆さんが反省するまで先生は授業をやりません!」は、教師の職務放棄?
「皆さんが反省して謝るまで授業をしません!」と言い残して教室を去る教師がいるが・・・

学校あるある「皆さんが反省するまで先生は授業をやりません!」は、教師の職務放棄?

授業中、生徒の態度に腹を立てた教師が突然、声を荒げる。「皆さんが反省して謝るまで授業をしません!」。教師はそう宣言すると、教室を出ていってしまった……。小学生のころ、誰もが一度は経験した"あるある"シチュエーションではないか。

だが、ちょっと待ってほしい。これって、教師の職務放棄なのではないだろうか?

教師が怒って職員室に引き上げてしまった場合はたいてい、生徒の代表として学級委員長が謝りに行くことになる。もちろん教師もそうなることを見越して待っているわけだが、この状況に問題はないのだろうか。

生徒たちの態度に我慢がならなかったとはいえ、授業中に教室を出てしまうことは、教師の職務放棄にあたるのではないか。法律の観点から見て、罰せられることはないのだろうか。小池拓也弁護士に聞いてみた。

●教師には教育の内容について、一定の「裁量権」がある

まず、教師の権限の法律上、どのように定められているのだろうか。

「学校教育法では、『教諭』は、児童や生徒の『教育をつかさどる』とされています。『教育』には授業だけでなく、いろいろな問題への対処等も含まれます。教師はこれらを『つかさどる』とされているわけですから、教育の内容を決めて実施することができる、といえます。

もちろん、法令、特に、大綱的な基準としての『学習指導要領』を守る必要があったり、校長の監督を受ける必要はありますが、その範囲内であれば、教師はどのような教育を、どのように実施するかについて、一定の裁量権をもっているといえます」

このように小池弁護士は、教師の「裁量権」について説明する。では、「皆さんが反省するまで先生は授業をやりません!」と言って職員室に引き上げることは、教師の裁量だとして、許されるのだろうか。

「教師に一定の裁量がある以上、授業をしないで他の問題に対応することは、裁量権の行使として通常は許されるでしょう。問題の中には緊急の対応を要するものもありますから、場合によっては、授業をせずに対応しなければならないことも考えられます。しかし、『授業をやりません!』と言って教室を立ち去ることが許されるかどうかは、具体的な状況に応じて、検討する必要があります」

このように述べたうえで、小池弁護士は次のように説明する。

「たとえば、教師が立ち去った後に、生徒たちが話し合うなどして反省することが予想される場合には、裁量権の行使として許されるでしょう。一方、生徒たちが話し合いなどせず、無秩序になることが予想される場合には、裁量権の濫用として許されないでしょう。当然ながら、生徒に反省させようという教育目的ではなく、単に腹を立てて立ち去るのであれば、裁量権を逸脱するものとして許されません。

また、1時間程度でおさめるのであれば、裁量権の行使として許されるでしょうが、これを何日も続けると、生徒の学習権等との兼ね合いもありますので、裁量権の濫用として許されないだろうと考えます」

●校長の命令に反して「教室の立ち去り」を続ければ、ペナルティの対象に

つまり、「授業をやりません!」と教室を立ち去ることが、許される場合と許されない場合があるということだ。では、そうすることが許されない場合であるにもかかわらず、教室を立ち去ったとしたら、その教師はペナルティを受けるのだろうか。

この点について、小池弁護士は「教室の立ち去りそのものに対して、ペナルティを課す制度はないと思われます」と述べる。ただ、「教室に戻るよう校長が命令したにもかかわらず、戻らなければ、職務命令違反として懲戒処分を受けるでしょう」ということだ。さらに、極端なケースでは、より重いペナルティを受ける可能性があるという。

「何週間もつぶして学習指導要領の大綱的基準を逸脱するようなことになれば、法令違反ということで懲戒処分を受けたり、学習権侵害として損害賠償請求の対象となることもありえます。

また、実際にそんなことをする教師はいないと思いますが、理科の実験や家庭科の調理実習など、具体的な危険が予想される場面で立ち去ってしまい、その結果として生徒が負傷した場合には、刑事責任(業務上過失傷害)を問われる可能性もあります」

どうやら、先生が「授業をやりません!」と立ち去ったとしても、生徒が謝りにくることを想定して、短時間で教室に戻るのならば、「職場放棄」とまではいえないようだ。ただ、このような行為が許されるのは「教育の一環」だからということなので、現場の先生には、その目的を忘れないようにしてもらいたい。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小池 拓也
小池 拓也(こいけ たくや)弁護士 湘南合同法律事務所
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。神奈川県 弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。

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