いまやすっかり定番となったコミュニケーションツール「LINE」。手軽にメッセージを送受信できるため「仕事でも利用している」という人は少なくない。あるリサーチ会社がスマートフォンをもつビジネスパーソンに聞いたところ、回答者の43%が「仕事関連でLINEを利用している」と答えたという。
しかし、メッセージを手軽に送信できるということは、仕事の連絡がいつでも届くということでもある。緊急時の連絡なら仕方ないかもしれないが、夜間も休日もひっきりなしにメッセージが届けば、心が休まらない。
「あの案件どうなった?」「明日の予定はどうなってる?」と上司からメッセージが飛んでくれば、部下としては「既読スルー」というわけにもいかない。結局、メッセージに対応せざるをえないことも多いだろう。
もし、こうした状況があるとすれば、労働法上、何か問題になったりするのだろうか。労働問題にくわしい佐々木亮弁護士に聞いた。
●指揮命令下にあれば「労働時間」とみなされる
「終業時刻後については、LINEを禁止したほうがいいと思う事例はありますね」
佐々木弁護士はこう指摘する。具体的にはどんな事例だろうか。
「たとえば、終業時間後に、上司がLINEで業務指示を出しているようなケースです。もちろん、労働者がそのメッセージを見なかったり、見ても応えなければいいのです。しかし、そうもいかないため、結局、LINEで会話が続いてしまうという場合ですね。
逆に、部下からLINEで業務報告をさせて、それに対し、上司が意見を述べたり、指導や注意をしたりして、それに対して労働者が応える、というのを終業時刻後に延々とやっている例もありました。さきほどのものと似ていますが、労働者が最初に報告している点が違います」
そうした事例は、労働法上、問題とならないのだろうか?
「LINEでの連絡・応対などが『会社の指揮命令下にある』と判断できる場合には、労働時間とみなされます。したがって、会社がその時間について賃金を支払わないと、労基法違反となります。
ただし、LINEでのやりとりについては、『会社の指揮命令下にあるかどうか』の判断が難しいですね。労働者が場所的に拘束されていませんし、ただちに判断することは、難しいでしょう。
これは新しい問題なので、前例となる裁判例も、まだありません
ただ、海外に目を向けると、フランスでは、企業が勤務時間外に電話やメール、テキストメッセージなどで労働者に連絡することを禁ずる条項が、労働協約に追加されたとの報道もあります。やはり、こういったことが問題だという認識は、世界的に広がっているのではないでしょうか」
●仕事の「オン・オフ」のメリハリをつけるべき
それでは現時点で、仕事でLINEを利用する際に気をつけるべきなのは、どんな点なのだろうか。佐々木弁護士は次のように指摘し、注意をうながしていた。
「LINEをはじめとしたネットのツールはたしかに便利です。業務に導入すれば効率化、合理化が図れる場合もあります。
しかし、労働法上、労働時間は厳しく制限されていることを忘れてはいけません。終業時刻後の労働者は、原則として、労働から解放されなければなりません。
実際問題としても、そうしないと休んだ気になりませんし、疲れも取れません。これではいい仕事はできないですよね。
LINEなどを使う際は、仕事のオン・オフのメリハリをつけるところに、注意を払うべきだと思います」