トヨタ自動車が従業員に支給している「家族手当」を大幅に見直す――。そんなニュースが流れ、注目を集めた。
報道によると、トヨタの現行の家族手当は、社員の配偶者が年収103万円以下の場合に月額1万9500円、子ども1人あたり5000円が支払われている。新しい制度では、配偶者向けを廃止する代わりに、18歳未満の子どもの手当を1人あたり2万円に増額する計画だという。
家族手当の変更により、子どもが2人以上いる社員は手当が増えることになる。しかし、社員の配偶者が専業主婦(夫)で子がいない場合、逆に減ることになる。会社側にとって、全体の人件費支払い額は変わらない見通しだ。
トヨタは2016年1月以降、見直しを段階的に実施し、2019年に配偶者分を完全に打ち切る考えだという。今回の制度をどのように評価するのか、佐原三枝子税理士に聞いた。
●少子化対策に軸足を置いた制度見直し
「トヨタの賃金改革は、まさに政府の意図する『女性の就労促進と少子化対策』を企業としても後押しするものでしょう。
夫の給与が目減りするくらいなら、働き方を抑えるという女性は多いので、配偶者手当の廃止が女性の就労を促進する効果はあると思います。
ただ、今回のトヨタの場合、子どもが2人以上いる社員は妻が専業主婦のままでも年収が増えます。ですから、女性の就労促進というより、むしろ少子化対策に軸足が置かれています。つまり、『子供のためにお母さんは家にいる』という選択を歓迎しているように感じられます」
家族手当が増えた社員にはどんな影響があるだろうか。
「手当が増えれば当然、税金も社会保険料も増えます。また、所得と連動して決まっている児童手当や子どもの医療費助成、学校の就学支援金などの受給額や受給資格、さらには保育所の保育料といった支払い額へも波及します。所得は増えたけれども、助成が減額されたという社員が現れるかもしれません」
トヨタ以外の国内企業にも同様の制度が広がる可能性もあるだろう。今回の見直しは、どう評価できるか。
「正社員として働いていて、子どもがいる既婚のトヨタの女性社員や、そのような女性を妻に持つ夫である社員には、今回の給与規定の改定は恩恵がありませんし、独身をとおしている社員と子どもを持つ社員との間の生涯賃金の差は広がるばかりです。
ダイバーシティー(多様な人材の活用)が提唱される時代において、家族手当の存在は古臭い感じがします。
家族手当とは、従業員を家族として処遇することで、安定と躍進を図ってきた日本企業独自の戦術です。ですから、家族手当という制度は、外資系の企業にほとんど見られません」
佐原税理士はこのように指摘する。
その一方で、「人口減少、少子高齢化という現象は、日本経済の行く末に最も重くのしかかる不安要素です」と述べ、今回の動きは、日本社会の課題に対するトヨタの意思表明だと話す。
「どのような社員がほしいのかという企業の意思表示が賃金規定の設計にあるとすれば、子どもが多い社員を厚遇するというのが、今回のトヨタの意思表明です。
この改定には、優秀な社員の子どもが再びトヨタに就職することで、将来の働き手を確保したいという思いばかりでなく、少子化を食い止めるための旗印となるのだ、という日本を代表する企業の責任感が感じられるようにも思います」
【取材協力税理士】
佐原 三枝子(さはら・みえこ)税理士・M&Aシニアスペシャリスト
兵庫県宝塚市で開業中。工学部、メーカー研究所勤務から会計の世界へ転向した異色の経歴を持つ。「中小企業の成長を一貫してサポートする」ことを事務所理念とし、税務にとどまらず、経営改善支援、事業承継や海外事業展開を手掛けている。
事務所名 : 佐原税理士事務所