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労基法改正で「残業代ゼロ」制度だけでなく「裁量労働制」の拡大も――両者の違いは?
裁量労働制と高度プロフェッショナル労働制の違い

労基法改正で「残業代ゼロ」制度だけでなく「裁量労働制」の拡大も――両者の違いは?

高度な専門知識があり、一定の年収要件を満たす労働者については、労働基準法による「労働時間規制」を外し、企業が残業代を支払わなくてもよいとする「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法改正案が4月上旬、国会に提出された。

この制度は「残業代ゼロ」と批判されているが、同じ労働基準法の改正案には、働く時間を社員が柔軟に決めることのできる「裁量労働制」の対象を広げることも、盛り込まれている。

現在の裁量労働制は、研究職や弁護士などの「専門型」と、調査・分析などの「企画型」がある。日本経済新聞の報道によると、専門型は50万人、企画型は11万人が対象者になっている。今回の法改正により、企画型の分野で、一定の専門知識を持った「法人向け提案営業職」にも対象を拡大することで、数万人が新たな対象になるそうだ。

「高度プロフェッショナル制度」と「裁量労働制」には、どんな違いがあるのだろうか。労働問題にくわしい古金千明弁護士に聞いた。

●最大の違いは「残業代」の仕組み

「『高度プロフェッショナル制度』とは、高度な専門的知識が必要で、時間と成果との関連性が高くない業務に従事する労働者について、一定の条件の下に、労働基準法で定められた労働時間などに関する規制が適用されないことを認める制度のことです」

「裁量労働制」も働く時間を柔軟に決めることができるそうだが、両者の違いはどこにあるのか。

「『高度プロフェッショナル制度』と『裁量労働制』は、労働時間の長さに関わりなく、労働の質や成果によって報酬を定めることを可能とするという共通の目的があります。

他方、2つの制度が認められるための条件や、法的な効果には違いがあります。

まず、対象となる業務が異なります。現時点で『高度プロフェッショナル制度』の対象となる業務としては、金融商品の開発・ディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発等が想定されていますが、『裁量労働制』が認められる業務(専門業務型、企画業務型)と必ずしも一致するわけではありません。

また、『高度プロフェッショナル制度』は、現時点では、年収1075万円以上の労働者に限られることが予定されていますが、裁量労働制の場合、年収要件はありません」

もっとも注目されている「残業代」についてはどうだろうか。

「たしかに、最大の違いは、残業代の有無です。

『高度プロフェッショナル制度』では、労働基準法の定める法定労働時間と休憩・休日の規制が適用されません。さらに、時間外・深夜・休日労働の割増賃金が発生しないことになりますので、『残業代ゼロ」になるとの批判を受けています。

一方、『裁量労働制』では、労働時間の計算を実労働時間ではなく、あらかじめ定められた『みなし時間』によって行うことになります。

『みなし時間』が法定労働時間を超えている場合には、超過分について時間外労働の割増の残業代が支給されます。また、深夜や休日の割増賃金も支給されます。『高度プロフェッショナル制度』と異なり、『裁量労働制』には、労働時間規制の概念があるのです。

はたして、『高度プロフェッショナル制度』は、成果によって評価される働き方を実現できるのでしょうか。それとも働き方の実態は変わらず、単に『残業代ゼロ』となるだけなのでしょうか。運用も含めて、注目されるところです」

古金弁護士はこのように語っていた。

<図表の注釈>

(注1)法定労働時間は、1日8時間、週40時間

(注2)1日の労働時間が6時間を超える場合:45分以上の休憩時間を付与

     1日の労働時間が8時間を超える場合:1時間以上の休憩時間を付与

(注3)法定休日として、1週1日又は4週4日以上の休日を付与

(注4)法定労働時間を超える時間外労働について、下記の残業代が発生

1ヶ月の合計が60時間まで:割増率25%以上

1ヶ月の合計が60時間を超えた場合:割増率50%以上(ただし、一定の中小企業は猶予)

(注5)深夜労働(午後10時から午前5時まで)について、割増率25%以上の残業代が発生

(注6)法定休日労働について、割増率35%以上の残業代が発生

(注7)みなし労働時間が法定労働時間を超える場合に発生。みなし労働時間が法定労働時間以下の場合は、実労働時間がみなし労働時間を超えても、時間外労働の割増の残業代は支給されない

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

古金 千明
古金 千明(ふるがね ちあき)弁護士 天水綜合法律事務所
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。

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