労働者の解雇が「不当」であると裁判所が判断したとき、労働者が職場に復帰するのではなく、企業が労働者に「金銭」を払って決着をつけるーー。そんな「解決金制度」の導入を検討するよう、政府の規制改革会議が提言した。今後、厚生労働省は、法改正を含めて検討を進める。
現行の制度では、会社から解雇された場合でも、裁判で「不当解雇」だと認められれば、職場に戻る道が開かれる。しかし実際は、企業側が職場復帰を拒み、お金を払って和解するケースが多い。
そこで、今回の提言では、労働者から申し立てがあった場合に限り、金銭の補償で解決する選択肢を明確に位置づけるという。提言では「金銭解決の選択肢を労働者に明示的に付与し、選択肢の多様化を図ることを検討すべき」としている。
不当解雇をめぐる解決金制度は、これまでも政府内で検討されたが、「金を払えばクビにできる」ということで反対論が強く、実現しなかった。導入されることで何が変わるのか。山田長正弁護士に聞いた。
●裁判で「不当解雇」が認められた場合だけを想定
「今回導入が検討されている制度は、裁判で『不当解雇』であると認められた場合だけを想定しています。注意しなければならないのは、会社が従業員に金銭を支払いさえすれば、どのような場合でも、解雇が有効になるという制度ではないということです」
たしかに「金さえ払えば、いつでも解雇できる」ということになると、従業員は安心して働けない。
「たとえば、ある会社が、従業員から解雇無効を求める裁判を起こされたとしましょう。会社が提訴される前にその人に一定額の金銭を支払っていたとしても、それは言い訳にはなりません。解雇は有効にはならないのです」
しかし、不当解雇を認めるような制度は、労働者にとって不利益にならないのだろうか。
「これは、労働者の申し立てがあった場合に限って適用するという制度です。従業員が職場復帰を求める場合は、この制度を利用しないこともできます。よって、必ずしも労働者にとって不利になるわけではありません」
●職場復帰を強く求める人のリスクは高まる
新たな問題が生じる可能性はないのだろうか。
「解雇が無効である場合に支払われる『解決金』の金額しだいでは、今回の制度を誤解する企業も出てくるでしょう。つまり、『~円を支払いさえすれば、従業員を辞めさせることができる』と勘違いしてしまうわけです。
その結果、安易に解雇に踏み切ることにより、解雇数や紛争数が増加するおそれがあります。
また、解雇無効が争われている裁判の和解の場面でも、『解決金』額を一定の基準として、『退職を前提に、金銭を支払って解決する』和解の流れが、従来よりも強くなることも想定できます。職場復帰を強く求める従業員には、リスクが高まることを想定しておく必要があるでしょう」
山田弁護士はこのように話していた。