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女性トラック運転手「トラガール」 10万人不足が予想される「運送業界」を救える?
国交省の「トラガール促進プロジェクト」のホームページ

女性トラック運転手「トラガール」 10万人不足が予想される「運送業界」を救える?

トラック運送業界の人手不足が深刻さを増している。長い拘束時間や他産業より安い賃金といった厳しい労働環境が敬遠され、若い人がドライバー職を選ばなくなっているためだ。「いずれはトラックで物が運べなくなる」。そんな恐ろしい予想もささやかれる中、危機感を募らせる国土交通省や運送業界は、やる気のある女性を獲得して何とか労働力不足を補おうと望みを託している。(取材・構成/藤原秀行)

●東京オリンピックに向けて「人材不足」が加速

2020年度にトラックドライバーが約10万6000人不足する。その大半は大型トラック——。JR貨物や運送会社などが参加している業界団体「鉄道貨物協会」は、2014年に公表した報告書で、衝撃的な予測を打ち出した。報告書はさらに、2020年の東京オリンピックに向けてインフラの整備が加速するため、運送業から建設業への人材流出が加速し、不足の度合いが予測以上に厳しくなる可能性が高いとの見方を示している。

業界団体の全日本トラック協会が2014年11月にまとめた景況感の調査結果によれば、労働力の現状について「不足」「やや不足」と答えた会員企業が計52.4%に達した。今後の予想では、その率が56.7%にまで拡大しており、状況に改善の兆しはうかがえない。

その背景にあるのが、厳しい労働環境だ。2013年の厚生労働省の統計調査では、大型トラックのドライバーの1カ月当たりの平均労働時間は220時間で、全産業平均(177時間)の2割以上長い。半面、平均の年間所得額は416万円と、全産業の469万円から1割以上少ない。平均年齢は46.2歳で、全産業平均の42.0歳を上回っている。

運送業界は1990年以降の規制緩和で新規参入のハードルが下がり、運送会社が増えて値下げ競争が激化。デフレも響いてなかなか運賃が上がらない環境が続いてきた。政府の統計調査からは、大型トラックのドライバーに若い人をなかなか採用できないため、必然的に中高年の男性の比率が高くなるという実態が浮かび上がる。

運送会社からも「70歳の人が中途採用に応募してきたりするが、若い人は全然来ない」「仕事の依頼が来てもトラックを動かせないから、断らざるを得ない」と悲鳴が上がる。

●専用サイトで「トラガール」の声を紹介

トラックは国内で運ばれる全荷物の5割(重量と運ぶ距離を掛け合わせた「トンキロ」ベース)を担う物流の大動脈だけに、人手不足で物が輸送できないとなれば、経済に及ぼすダメージは計り知れない。そこで、国交省や運送業界はこの窮状を打開するため、女性ドライバーを増やそうとしている。

厚労省の2013年の調査では、トラックドライバーのうち、女性が占める割合はわずか2.4%にすぎない。力仕事が多いことなどから、全産業平均の42.8%など遠く及ばない低水準にとどまっている。逆に言えば、それだけ伸びしろはあるというわけだ。

国交省や運送業界は「大型免許を保有している女性は全国に13万人以上いる。職業を選ぶ際にドライバーを選択肢の1つとして考える女性は潜在的に一定程度見込まれる」と期待。女性ドライバーを2020年までに現在の2倍まで増やすとの構想をぶち上げている。

そのため、女性のトラックドライバーの愛称を「トラガール」と決定。昨年9月に専用のウェブサイトを立ち上げ、各地で活躍している現役女性ドライバーの声や関係業界の応援メッセージなどの情報発信を進めている。

運送会社も動き出した。「作業の負担を減らすため機械化を進めている」「女性ドライバーをチームリーダーに抜擢した」「自社内に託児所を設置した」「トラックの車内装飾を認めている」。全日本トラック協会のパンフレットには、事業者が模索しながら取り組む事例が並ぶ。同協会は「荷物の扱いや対応が丁寧なため、顧客からの評判が良くなる」などとメリットを訴え、女性の採用を会員企業に働き掛けている。

トラックメーカーもこうした動きをサポート。UDトラックスはフルオートマチックなど女性が運転しやすいトラックの開発を推進。日野自動車は大型車の販売店に女性専用の待合室を設けたり、女性のコンシェルジュを置いたりして、修理の依頼などで来店しやすいよう配慮している。関係業界を挙げての取り組みが奏功し、「トラガール」が人手不足を救う日は来るだろうか。

(税理士ドットコムトピックス)

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