人工知能(AI)がつくった音楽や絵画、小説などの創作物を「著作権保護」の対象とすべきかどうかについて、政府の知的財産戦略本部(本部長:安倍晋三首相)が検討作業をすすめている。
AIはまだまだ発展途上だが、最近では、公立はこだて未来大学の松原仁教授による「短編小説を書くAI」の研究などが注目を集めた。今後、人間がつくったものと見分けがつかないくらいのクオリティをもつ作品が登場する時代がやって来るかもしれない。
現行の制度で、人間がAIを「道具」にしてつくった創作物は、その人に著作権が認められている。一方で、AIが自律的に生成した創作物については、一般に権利の対象と考えられていない。AIの創作物の著作権について、どのような課題があるのか。福井健策弁護士に聞いた。
●人工知能が自律的につくったものが市場を席巻する可能性も
「AIが自動生成するコンテンツとしては、すでに米国で、短いニュース記事が大量に配信されていたり、自動翻訳や自動撮影の映像・画像など、多くの分野でビジネス化が進んでいます。
はたして、人工知能が将来、ゴッホや大島弓子のような表現の高みに達することができるかどうかはわかりません。しかし、一人ひとりの好みやニーズに合わせて、カスタマイズされたものなど、マーケットで勝負になる程度のコンテンツならば、AI自動生成が市場を席巻する可能性は十分ありそうです。
こうしたAIの創作物に著作権があるなら、誰もAIのコンテンツを無断でコピーしてネットで流したりできなくなり、逆に著作権がなければ、それは基本的に自由になります。
もし、人間並みの作品が生まれるならば、法律や解釈を変えて、著作物と認めて良い気もします。しかし、必然的にそうなるものではありません。AIの生成物に著作権を認めることのメリットとデメリットを、総合的に比較して我々の社会が決めれば良いことです」
●AIのコンテンツに著作権を認める場合の課題とは?
「一方で、AIが作ったコンテンツのコピーが自由ならば、たとえば人工知能の開発が停滞するなど、社会的な不都合が生じるのかが問われます。この点、開発されたAI自体は、現行法でも特許や著作権で守られますから、似たシステムを誰かが勝手に作ることは許されません。
さらに、AIを支えるデータベースから丸ごとごっそりデータをぬいていくような行為も、すでに現行法で規制があります。そうであれば、それを超えて個々のAI創作物に新たな著作権を認める必要はないかもしれません。
ここで問題になるのは、機械は疲れないので、近い将来、それこそ年間数十億というレベルの膨大なAI創作物が生み出される可能性があるということです。
もし、そこに著作権を認めると、『ほとんどの表現の組み合わせはすでに世の中に存在しており、特定少数の企業がその権利を独占している』という事態が生じないか。あるいは、人間のクリエイターがそのどれかと似た創作をおこなうと著作権侵害になるのか、と心配する人もいそうですね。
いずれにせよ、『AI創作と著作権』は、情報社会のゆくえとも大いに関係するトピックといえそうです」