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不祥事を起こした警察官が誰なのかを、市民は法的に知る術はあるのか

不祥事を起こした警察官が誰なのかを、市民は法的に知る術はあるのか

現職の警察官が日中の海水浴場で少女を泥酔させた上に性的な暴行を加えたとして逮捕されるという、前代未聞の事件が発生した。

逮捕されたのは大阪府警の布施署に勤務していた永田昌也容疑者で、報道によると永田容疑者は同僚の3名の警察官と海水浴場に来ており、その同僚のうち2名についても少女の胸を触るなどした疑いがもたれているようだ。暴行の様子は周りの海水浴客に気付かれていたようで、事件の状況が報じられるにつけ、そのあまりに異常な内容から、とても警察官による犯行だとは思えない人もいるのではないだろうか。

ところが8月8日現在、この事件について永田容疑者以外の警察官の名前は明らかになっていない。

現在のところ逮捕されたのは永田容疑者だけであるが、もし今後他の3名について名前や処罰等が報じられなかった場合、布施署の管轄内に住む市民からすれば、何かあった際に警察に相談に行っても応対する警察官が実は事件の当事者なのではないかという疑念が付きまといかねない。特に女性からすればその不信と不安は大きいのではないだろうか。

それでは、今回の事件に限らずではあるが、警察官が不祥事を起こした場合に市民はその警察官が誰であったのかを法的に知る術はあるのだろうか。刑事事件に詳しい萩原猛弁護士に聞いた。

●事件に関係のない市民には、氏名の開示を強制する方法はない

「今回の事件については、報道によれば、永田昌也容疑者は、準強姦罪で逮捕されたものの、無理矢理ではないと容疑を否認しているとされています。ここで注意しなければならないことは、逮捕されたからといって、その人が本当に犯罪を犯していると断定することはできないということです。逮捕は、あくまで犯罪を犯した疑いがあるということを示しているに過ぎません。」

「まして、逮捕もされていない他の警察官については、犯罪の疑いがあるのかさえ明確ではありません。逮捕され犯人だと断罪された人が、実は無実であったということを我々は何度も経験しています。従って、まずは、冷静に捜査や刑事司法手続きの推移を見守る必要があるでしょう。」

「その上で、これら容疑者の氏名が報道されなかった場合に、一般市民が、その氏名を、法的に知る方法があるかということですが、そのような開示手続を法的に強制する方法は見当たりません。」

●事件の被害者であれば知ることが可能

「ただし、そのような犯罪の被害者となった者については、現行法上様々な被害者支援制度が設けられています。今回の事件のような強姦罪や強制わいせつ罪は、『告訴』がなければ、容疑者を刑事裁判にかけること(=起訴)ができない犯罪=『親告罪』とされていますが、告訴した被害者に対し、検察官は、捜査の結果、容疑者を起訴したのか、不起訴にしたのか、その結果を通知しなければなりません。」

「もし、不起訴になった場合、その処分に納得がいかなければ、被害者は、検察審査会への申し立てができます。更に、起訴された場合には、被害者参加制度があり、刑事裁判に参加し、記録の閲覧・謄写が許され、一定の範囲で被告人質問や意見陳述が可能です。」

「また、被害者の損害賠償請求権を実現するために、刑事手続の成果を利用できる損害賠償命令制度もあります。このような手続の過程で、被害者は、自分に被害を与えたとされている者の氏名を知ることができます。」

●メディアが報道するか、公開法廷を傍聴するか

「しかし、一般市民は、メディアが報道しない限り、それを知るのは困難です。容疑者が起訴されれば、刑事裁判は公開法廷で行われるので、抽象的には刑事裁判の被告人の氏名は、誰でも知り得るとは言えるものの、その裁判がいつ開かれるかが事前に一般公開されるわけではありません。」

つまり、事件に関係のない市民が不祥事を起こした警察官が誰なのかを知ることは、メディアが報道しない限り、現実的には難しいといえるだろう。

残念ながら今回の事件の他にも、神奈川県警の男性警察官による女性警察官に対する集団セクハラなど、警察官による不祥事の報道が続いてしまっている。

このままでは市民からの信頼度の低下はもちろん、真面目に勤務している警察官の士気にも影響を与えかねず、警察全体としてこのような事件が続くことのないよう規律を正してもらいたいものである。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

萩原 猛
萩原 猛(はぎわら たけし)弁護士 ロード法律事務所
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。

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