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アパート住人が雪で滑って「大ケガ」 雪かきしなかった大家に治療費を請求できる?
慣れない雪に、都心の人が苦しめられた

アパート住人が雪で滑って「大ケガ」 雪かきしなかった大家に治療費を請求できる?

この冬、首都圏は記録的な大雪に見舞われた。気象庁の発表によると、東京都心部の積雪は2月9日で27センチ。東京都区内で積雪が20センチを超えるのは、実に20年ぶりのことだったという。

雪道で車がスリップしたり、凍結した道で歩行者が転倒したりと、事故も多く発生した。千葉県に住むライターのSさんも雪が原因で負傷した一人だ。住んでいるアパートの入口付近で盛大に転び、足首を捻挫してしまったのだ。全治3週間だった。このアパートは、管理人不在で管理組合もなく、入口の近くはまったく雪かきがされていない状態だったという。

賃貸住宅において、住環境を快適に保つのは大家の仕事のはずだ。大家は、住民の安全のために雪かきをする必要があったのではないか。Sさんは大家に対して、治療費を請求することができるだろうか。雪国・北海道で開業する難波徹基弁護士に聞いた。

●雪で滑っただけでは賠償請求は難しい

「確かに、大家は、建物の安全を確保すべき義務を負っています。しかし、単に積もった雪で滑ったと言うだけでは治療費を賠償請求することは困難でしょう。雪国だけの感覚かもしれませんが、雪が積もっただけでは、特に危険な状態ではないからです」

つまり、雪かきがされていないというだけでは、大家に責任があるとは言えないのだろうか。

「はい。民法には『工作物責任』という概念があります。たとえば、ある建物に住む人が、その構造物でけがをしたとします。この人に過失がない場合、基本的には、建物の所有者が賠償責任を負うことになります。

けれど、それは、建物の保存に瑕疵(欠陥)があったり、注意義務に違反していたりという事実が、所有者側に認められた場合です。今回の場合は、大家さんにそこまでの責任があったとは言えないでしょう」

●苦情が出たのに「放置」していた場合は?

「もっとも、溶けた雪が凍った状態が続き、苦情が出たのに放置していたり、階段など雪が積もれば危険な状態になる場所に雪が積もっていた、といった事情があれば、瑕疵あるいは注意義務違反が認められることもあるでしょう。

雪ではありませんが、濡れた床で滑って転倒したというケースで、施設管理者が滑りやすい状態を放置していたとして、注意義務違反および賠償責任が認められた事例は複数あります」

なるほど、Sさんが大家さんに何度も雪かきをお願いしていたら、賠償請求できるかもしれないということだろうか。

「ただし、仮に大家に賠償責任が認められたとしても、雪が積もり、入り口付近が滑りやすくなっていることは、歩行者もわかっていたはずです。したがって、歩行者にも落ち度があったとして、過失相殺され、賠償額が減額されることがほとんどでしょう。過去の裁判例では、5割もの大幅な過失相殺を認めたものもあります」

Sさんには申し訳ないが、どうやら、治療費の全額請求は厳しそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

難波 徹基
難波 徹基(なんば てつき)弁護士 のぞみ・ひかり法律事務所
北海道札幌市在住、1998年弁護士登録、札幌弁護士会所属。マンション、住宅、景観など都市環境にまつわる問題に取り組んでいる。

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