神奈川県川崎市の県道にロープを張り、バイクで走行中だった男性の首にけがをさせたとして、川崎市内の無職男性が殺人未遂容疑で逮捕された。報道によると、ナイロン製テープが6車線にわたり、路面から約1.5メートルの高さで張られていたという。
バイクの男性はスピードがあまり出ていなかったため転倒しなかったが、ロープが首に引っかかり、軽いけがをした。容疑者は「車を止めたかった」と供述しているが、殺意については否定していると報道されている。
過去にも道路にロープを張り、通行中のバイクを転倒させる事件は度々起きている。2009年には東京都武蔵村山市で、未成年4人が道路にロープを張り、スクーターの女性が転倒して大けがをするという事件があった。4人は殺人未遂容疑で逮捕され、そのうち3人は不起訴、1人が往来妨害容疑と傷害の罪で起訴されている。
道路にロープを張るという行為は、どのような罪に問われるのだろうか。なぜ、今回は「殺人未遂」容疑だったのだろうか。 刑事事件に詳しい德永博久弁護士に聞いた。
●「結果的に殺害することになるかもしれないが、それでも構わない」という「未必の故意」
道路にロープを張るという行為は、どのような罪に問われる?
「まず、道路にロープを張ってバイク等の走行を困難にする行為は、『陸路』を『閉塞』して『往来の妨害を生じさせた』ものとして、刑法第124条第1項の往来妨害罪が成立します。
これに加えて、道路にロープを張ることによってバイクの運転者を『転倒させて死亡させよう』と考えていた場合は、往来妨害罪と殺人(既遂又は未遂)罪の2つが成立することになり、また、死亡させることまでは考えていなくても『転倒させて負傷させよう』と考えていた場合は、往来妨害罪と傷害罪の2つが成立します」
では、今回の事件をどうみる?
「往来妨害罪ではなく殺人未遂罪の容疑で逮捕されていますが、これは、捜査の初期段階においては、『被疑者がどのような心理状態であったのか』という点について正確に検証することが困難であることから、『道路にロープを張ることによって、バイクの運転者が転倒すれば死亡する危険性が高いことは容易に想像がつくであろう』という考えに基づき、殺人罪における『未必の故意』を被疑者が有していたものとして殺人未遂罪を被疑事実として逮捕したものと思われます。
ここでいう殺人罪の『未必の故意』とは、積極的に『被害者を殺害しよう』という意思まではないものの、『結果的に殺害することになるかもしれないが、それでも構わない』として容認する意思のことです。裁判例上はこれについても殺人罪の故意として認められていることから、この事件の被疑事実を殺人未遂容疑として逮捕することが可能となります。
なお、逮捕後の本格的な捜査や取調べを進めていくにつれて、被疑者の内心についても詳細な分析と検討が行われた結果、検察官が起訴する段階においては『未必の故意』が認められないとして、往来妨害罪や傷害罪で起訴するということが実務上多く見受けられます」