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刑務所で収容者の男性が死亡・・・熱中症で倒れた場合、刑務所の責任を問えるか?
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刑務所で収容者の男性が死亡・・・熱中症で倒れた場合、刑務所の責任を問えるか?

9月も半ばとなり、雨を除けば過ごしやすい季節となったが、この夏は暑さに苦しめられた人も多いだろう。猛暑で熱中症にかかる人もあいついだが、和歌山市内の刑務所では7月に、40代の男性収容者が熱中症とみられる症状で倒れ、死亡するという悲劇が起きた。

報道によると、この収容者は7月31日午前9時半ごろ、「単独室」と呼ばれる部屋で労役作業中に倒れ、病院に搬送されたが、まもなく死亡した。室内には常時飲めるお茶があったが、エアコンはなかった。医師は常駐していなかったという。この日の和歌山市内の最高気温は、平年より3.9度高い36.3度を記録していた。

刑務所側は「対応に問題はなかったと考えている」という、ネット上では、「扇風機くらい置いてやれよ」「殺しておいて問題ないってひどいな」など、批判の声が少なくない。刑務所の収容者が熱中症などで亡くなった場合、遺族は損害賠償を請求できるのだろうか。神原元弁護士に意見を聞いた。

●刑務所の職員には「安全配慮義務」がある

「たとえば、刑務所に収容中の受刑者が、刑務所職員によって革手錠を使用され、急性腎不全等の傷害を負った事件がありました。これについて裁判所は、刑務所職員に『安全配慮義務違反』があったとして、国の損害賠償責任を認めました(大阪地裁平成23年12月8日判決)。

このように、刑務所の職員は、在監者の身体の安全に配慮する義務を負います。本件は、その義務に違反する可能性がありますので、損害賠償を請求することはできます」

人が死んでいるのに、刑務所側は「問題はなかった」という。はたして、そうなのだろうか。

「猛暑の中、エアコンのない室内で作業するような刑務所・拘置所の環境は、人が過ごす場所として適切ではないでしょう。

そもそも懲役刑のような自由刑は、受刑者の『自由』を奪うことを認めても、健康を奪うことまでは認めていません。受刑によって受刑者の健康が害されるとすれば、重大な人権侵害といえます。

実際、弁護士会の人権救済申立事例などをみると、刑務所内での待遇問題は、医療に関するものが圧倒的に多いのです。これは、刑務所の職員が、安全配慮義務についての自覚に欠け、予算不足などを理由に受刑者の健康を顧みないケースが多いためだと考えます。

刑務所内での受刑者の健康への管理不行き届きは、重大な人権問題です。国民的な議論が必要でしょう」

神原弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

神原 元
神原 元(かんばら はじめ)弁護士 武蔵小杉合同法律事務所
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、2000年に弁護士登録、2010年武蔵小杉合同法律事務所開所。2013年3月にはジャーナリスト・有田芳生氏とともに東京都公安委員会に在特会のデモに関する申し入れを行った。

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