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電車が近づく駅のホームで人を突き落としたーー「殺すつもりはなかった」は通用する?
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電車が近づく駅のホームで人を突き落としたーー「殺すつもりはなかった」は通用する?

大阪府警生野署は6月中旬、駅のホームから男性を突き落としたとして、同府八尾市の男性(49)を殺人未遂の容疑で現行犯逮捕した。

報道によると、男性は、6月14日午前8時ごろ、近鉄大阪線・鶴橋駅のホーム(高さ約1.1メートル)から、東大阪市内の男性会社員(28)を突き落とした疑いがもたれている。普通電車の運転士が気づいて急ブレーキをかけ、ホームから約80メートル手前で停止した。男性にケガはなかったそうだ。

2人とも酒に酔っており、体が接触したことが発端でトラブルに発展したようだ。男性は「突き落としたことは間違いないが、殺すつもりはなかった」と容疑を否認しているという。

駅のホームで、ささいなことから乗客同士のトラブルに発展することは少なくない。相手を突き飛ばしてしまったような場合、相手がホームから落ちたら、殺すつもりがなくても殺人未遂罪に問われることになるのだろうか。刑事事件に詳しい永芳明弁護士に聞いた。

●「人が死ぬ危険性の高い行為」と認識していたか?

「他人に対して暴力を振るえば、暴行罪、怪我をすれば、傷害罪が成立します。そして、その他人が死亡した場合、殺意があれば殺人罪、殺意がなければ傷害致死罪が成立するケースが多いです。

殺意があっても死亡の結果が発生しなかった場合は、殺人未遂罪になります。殺人罪の法定刑は、死刑、無期もしくは5年以上の懲役となっており(刑法199条)、傷害致死罪の法定刑は3年以上の有期懲役となっています(刑法205条)。両者を分けるのが『殺意』の有無です」

永芳弁護士はこのように述べる。今回のケースは、殺意があったということだろうか。

「『殺意』とは、一般的には、『殺すつもり』であると言われていますが、刑事裁判の世界では、もう少し広い意味で使われます。

すなわち、『殺したい』という積極的な意図を有している場合のほかに、そこまでの積極的な意図はなくても、『相手が死んでもかまわない』という、いわゆる『未必(みひつ)の殺意』も含まれることになります。

今回の事件では、被害者がホームから線路に転落して、進入してきた電車にひかれたら、死亡の結果が発生する可能性は相当高いと考えられます。

駅のホームで、電車が近づいている状況で、線路に転落させる行為は、まさに『人が死ぬ危険性の高い行為』と言えるでしょう。

そして、そのような状況を認識していたならば、『殺すつもりはなかった』と弁解しても、電車が近づいているという状況を認識していたら、『そのような行為であると分かって行った』、すなわち『殺意があった』と判断される可能性があると思われます」

●「殺意」をどう判断するのか?

内心では「殺そう」と考えていないようなケースでも、「殺意があった」と判断されることもありうるということだろうか。

「たしかに、『殺意』は本来、心の中の問題です。しかし、心の中の問題だからといって、犯人が『殺すつもりだった』とか『死んでも構わないと思っていた』と言えば、殺人罪になり、『殺すつもりはなかった』と弁解すれば、傷害致死罪となってしまうという結論は、不合理です」

裁判では、どうやって殺意があったかどうかを判断しているのだろうか。

「犯人の供述だけでなく、客観的な事情等から推定していくという判断方法が定着しています。

具体的には、事件に至る経過や動機、被害者の怪我の場所や程度、凶器使用の有無、凶器が用いられた場合は凶器が何か、どのように使ったか等の事情で判断されます。

裁判員裁判が始まってから、裁判所では、『人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行った』かどうかと言う観点で判断すると説明しています。

今回のケースと異なり、相手を素手で突き飛ばして転倒させただけという場合、通常は『人が死ぬ危険性の高い行為』と言えず、殺意が認められないケースが多いでしょう」

永芳弁護士はこのように分析していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

永芳 明
永芳 明(ながよし あきら)弁護士 滋賀第一法律事務所
弁護士滋賀弁護士会・刑事弁護委員会委員長、日本弁護士連合会・刑事弁護センター委員

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