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「リーガルハイ」弁護士が選ぶドラマ1位に!脚本家・古沢良太氏インタビュー<完全版>

「リーガルハイ」弁護士が選ぶドラマ1位に!脚本家・古沢良太氏インタビュー<完全版>

「弁護士が選ぶ法曹界を描いたドラマ・漫画・映画ランキング」ドラマ部門で1位に選ばれた「リーガルハイ」シリーズ(2012年〜フジテレビ)。本作で特に注目されたのが、毒舌で偏屈な主人公・古美門研介弁護士(堺雅人)が放つ数々の名言だ。 なぜ、これまでの弁護士ドラマの主人公とは違うタイプにしたのか。「世間」や「正義」のあり方を問う古美門弁護士のセリフはどのように生まれたのか。脚本を手がけた古沢良太氏に聞いた(インタビュー日:2021年4月22日オンラインにて実施)。 ※2021年6月号の雑誌に概要版を掲載したインタビューの完全版を掲載。 ※写真は、古沢良太氏(本人提供)

ランキング1位「そんなバカな」


ー「弁護士が選ぶ法曹界を描いたドラマ・漫画・映画ランキング」ドラマ部門ランキング1位になったご感想をお願いします。

「そんなバカな」って思いました。僕は法的なことはまったく勉強していないですし、「こんな裁判があったら面白い」「こんな検事や裁判官がいたら面白い」という気持ちで書いていたので。

ドラマは、誰か一人の力で作るものではありません。堺さんや新垣結衣さんをはじめとするキャストや優秀な監督、スタッフの方たちのおかげでこの作品が出来上がりました。ドラマというものは、いろいろな人たちの力がうまく噛み合ったときに良いものになるので、座組に恵まれたということだと思っています。

リーガルハイシリーズを選んでもらえたのは、世間が「正しい」と思っていることが本当に「正しい」のか、「悪者」と思われている人たちにも彼らの「正義」がある、ということに向き合っていたからなのではないかと思います。ハチャメチャな世界ですが…。

ー「リーガルハイ」シリーズは一般的にも人気を博した作品ですが、放送当時はどのような反応がありましたか。

僕としては、ドラマ開始当初、「そんなに広く受け入れられなかった」という認識でした。1話は、殺人の罪で起訴されたものの、無罪になった人が「本当は殺人犯だったのではないか」と匂わせる終わり方にしたのですが、雑誌の記者に「最後の匂わせがなければすごい気持ちよく終われたのに。なんで、あんなシーンがあるんですか」と言われてしまいました。「あのシーンがあるから、新しいドラマになっているのに」と言い返したのを覚えています。

あとは、エゴサーチしていたときに「言語道断なドラマで、地上波で放送してはいけない」と言っている人がいるのもみつけました。ある種、正義や法みたいなものを信じていない世界線ですからね。

ただ、時が経つにつれて、じわじわ広まっていきました。テレビは、「広くみんなに楽しんでもらえるように」って作るのですが、その結果として凡庸な作品になりがちということがあるんですよ。ただ、リーガルハイは、僕だけではなく、スタッフもキャストも「視聴率的に不利になるのでは」ということを恐れずに、「ターゲットが狭くても、深く刺さるものにしよう」と思ってドラマを作っていた部分があったのかもしれません。そういう作品の方が、結果的に、時間が経ってから広がっていくということだったのではないかと思っています。

未だにこの作品をおもしろいと言ってくださる人たちがいるので、とてもありがたいと思っています。


※実際に使われた脚本(写真は本人提供)

毒舌弁護士・古美門研介「絶対、弁護士会にいられない」


ーなぜ、弁護士モノのドラマにしようと思ったのですか。

最初は弁護士モノにするつもりはなく、「セリフの応酬で笑わせるようなコメディがやりたい」とだけ思っていました。アメリカの脚本家のニール・サイモンが作るような男女が「売り言葉に買い言葉」の掛け合いをするドラマにしたくて。なんとなく弁護士ってそういうイメージがあったので、いいかなって思ったんです。

当時、弁護士の知り合いはいませんでしたし、「弁護士はこういう人」というイメージも特にありませんでした。ただ、テレビのバラエティ番組で活躍する弁護士は見ていたので、そのイメージはあったのかもしれません。

「弁護士」という肩書きにやりにくさがあったとすれば、弁護士会に入っていないといけないことでしょうか。ああいうのは、入っても入っていなくてもいいものかなと思っていたんですけど。「古美門は絶対、弁護士会にいられないだろう」とは思いました。


※写真は弁護士会館(hamazou / PIXTA)

ー古美門弁護士は、脚本を書き始めた当初から毒舌なキャラクターだったのでしょうか。

はい。その毒舌もただ罵倒したり、嫌なことを言ったりするのではなく、いちいちひねった言い方をするものにしたかった。普通に言えばいいのに、「なんでそういう言い方するのかな」と思わせる人っているじゃないですか。その塊みたいな人にしたかったんですよ。

とにかく性格が悪い主人公にしようと思っていました。性格が悪くて嫌われるような役を魅力的に書くということが好きなんですよね。そこに堺さんの演技も加わり、あのようなキャラクターになりました。

古美門には自分の主義主張というものがないんです。本当はあるのかもしれませんが、決して表に出さない。ただ、大金を払ってくれる人に雇われて、その人を勝たせるためならば、なんでもする。「この人は殺人犯じゃないか」と思っていたとしても、無罪にする。みんなお金を稼ぐために仕事をしているわけで、お金のために仕事をまっとうするという点で、古美門はプロフェッショナルだと思います。

一方でいわゆる「人権派」とよばれている弁護士たちの話を聞いて、お金のために仕事をしているわけではない方たちもいることを知りました。新鮮な発見でしたね。

ー古美門弁護士をこれまでの弁護士ドラマとは違うタイプにしたのはなぜですか。

日本の弁護士ドラマの多くは、いわゆる「人権派」とよばれるような弁護士が、お金のためではなく、弱き者の味方になって真相を暴き、その人の冤罪なりを晴らしていきます。だから、どうしても刑事ドラマの亜流になっちゃうんですよね。

本来、多くの弁護士はそうではないと考え、「真相を暴く」のではなく、「論破する」ということに重きを置きたいと思いました。

アメリカのドラマには、汚い手を使って裁判に勝つタイプの弁護士を描いた作品がたくさんあります。業界内や事務所内の抗争、派閥や出世争いも描かれています。もちろん、日本よりも弁護士が身近な国だから、そういうドラマも作られていくんでしょうけど。弁護士モノをやるんだったら、そういう海外ドラマのような作品を目指したいと思いました。

ドラマは、その人物に会いたくて見るものなので、「また来週もこの人たちに会いたい」と思ってもらえるかどうかが大事だと思っています。結果として、古美門は「愛せる」魅力的なキャラクターになったと思います。

「未だに裁判所に行ったことがない」


ー裁判所に対しては、どのようなイメージを持っていましたか。

特にイメージはありませんでした。実は、未だに裁判所に行ったことがないんです。

プロデューサーに「一度ぐらいドラマを始める前に見に行きましょう」と言われ、「行かなきゃ、行かなきゃ」と思いながら、結局行かないまま脚本を書き終わってしまいました。もう、今となっては行かない方がいいんじゃないかと思い始めています。


※写真は東京高等裁判所(KA-HIRO / PIXTA)

ー法的な部分について、毎回チェックは受けていたのでしょうか。

はい。法律監修は室谷光一郎弁護士でした。かならず膨大な量の赤(修正の指摘)が入って戻ってきて、毎回「実務では、こういうことはありえません」と書かれていました。

ただ、ありえないことをやるのが古美門なので、逆に「実務ではありえません」と書かれていないといけないと思うようになりました。「絶対にやってはいけないこと」なのか「通常はやらないけれど、やってもいいこと、やってはいけないと決まっているわけではないこと」なのかは確認して、前者でなければOKだと判断していました。

「そもそも裁判所では歩き回らない」と言われたこともあります。ただ、歩き回らないと、絵的に面白くないんですよね。

裁判所に行ったことがないので、当初は裁判のシーンも多くは作らないつもりだったんです。でも、裁判には「通常はこうする」というものがあるにせよ、意外となんでもありなのではと考えるようになりました。そこで、裁判をバトルのフィールドとして面白くしようと思いました。

基本的には、「裁判官に怒られなければいいのかな」「裁判官が黙認するのならばよいのではないかな」と思いました。書いていくうちに、だんだん「裁判官も面白いな」と思い始めて、別府敏子裁判官(広末涼子)などの変わったキャラクターを登場させるようになりました。

ー作中に登場する裁判は、過去の裁判例などを参考にされたのでしょうか。

自分で考えたものもありますし、リサーチ会社の人に調べてもらった「世界の変わった裁判」の中から参考にしたものもあります。

「ブサイク裁判」(「リーガルハイ(2013年)」3話)もその1つです。実際に、海外で奥さんが整形しているということが分かって離婚訴訟を起こしたという事例があったので、それを参考にしました。

ー古美門弁護士が以前所属していた三木法律事務所(代表弁護士は三木長一郎、演:生瀬 勝久)のモデルとなった法律事務所はあるのでしょうか。

モデルは特にありません。法律事務所のことも何も知らずに書いていました。ただ、後から「大きな事務所の弁護士は企業法務の案件が多く、裁判はやらない」という話を聞きました。おそらく三木は古美門に対してだけムキになっているだけで、普段は企業法務をしているのかなと思います。

※写真はイメージです(センメー / PIXTA)

「正義の執行人」として「叩く側」に転じる世間…SNSで感じた疑問


ー古美門弁護士は「世間」や「正義」に言及するセリフが多い印象です。このようなセリフはどのようにして生まれたのでしょうか。

「正義の味方の弁護士が真相を暴いて、弱い者を助ける」「悪い人の悪事を暴いて鉄槌を下す」という話にはしたくなかったんです。現実って、正義と正義がぶつかっているから面倒くさいわけじゃないですか。

古美門は大金を払ってくれる方につきますが、多くのドラマではお金持ちは「悪役」として描かれています。必然的に古美門はこの「悪役」側を勝たせる役割を担います。

一般的には、悪役側が勝ってしまうと、視聴者はカタルシスが得られませんし、ドラマとして成立しなくなってしまいます。でも、多くのドラマで「悪役」として描かれる大企業やお金持ちの人たちにも、言い分や背負っているものがある。それを描くことで、見ている人たちの価値観を逆転させることに挑戦したいと思いました。「こっちにはこっちの正義がある」という風に。だから、自然と「正義とは」というテーマに言及することも出てきたんです。

世間一般の人は、いわゆる「いい話」が好きだと思うんですよね。日々いろいろなスキャンダルがある中で、当事者たちの事情も知らないのに、一見かわいそうな方に味方して、すぐに相手を叩く人たちが多いのを見ていて感じます。まるで自分が「正義の執行人」になったかのように、(自分なりの)「正義の鉄槌」を下す人たちが多いと、当時も、今も感じています。


※写真はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

僕は、謝罪会見などを見ると、性格的に「自分もいつあそこに立って謝罪することになるか分からないな」と、謝罪する側のことを考えてしまいます。でも、SNSを見ていると、多くの人たちが「叩く側」になり、謝罪している人をボロクソに攻撃している。「自分は謝罪する側にならないと思っているんだ」と不思議に思います。SNSという場が、自分のうっぷんを晴らすためのゲームの場になっているのかもしれませんが。

「リーガルハイ」は「勧善懲悪」にしないと決めて書いていたので、「どのようにクライマックスやカタルシスを作って、お客さんに気持ちよくなってもらうか」ということは毎回悩みました。コメディですから、やっぱり後味が悪くても良くないですからね。その中で、視聴者の情に訴えて「めでたしめでたし」ではなく、ロジカルなクライマックスを作ることで、視聴者に満足してもらえるストーリーが成立するということも分かりました。ロジカルなクライマックスは、「リーガルハイ」で確立した自分の得意なスタイルがひとつです。その意味で、僕のキャリアの中では結果的に大事な作品にもなりました。

「裁判で勝ったから幸せ、負けたから不幸」ではない


ー「リーガルハイ」の続編を期待する声は今もありますが、今後続編の予定はありますか。

今のところ予定はないです。「今やったらもっと視聴率が取れる」「もっとヒットする」という理由で続編を出すのは違うと思っています。出演者のみなさんは人気者ですから、なかなか難しいとは思いますが、主要メンバーが全員「もう1回やりたいね」という気持ちになれたら、自然とできるのではないかなと思います。

ー今後も法曹界をテーマにした面白い脚本を書いてみたいと思うことはありますか。

日々のニュースを見るたびに、「優秀な弁護士がついたら、この人は救われるんじゃないかな」と思うことはあります。そういうときに、また法曹界をテーマにした作品を書いてみたいと思うことはあります。

たとえば、森喜朗元首相の「女性が多い理事会は時間がかかる」という発言が話題になったときも、古美門ならばどうするかを考えました。あってはならない発言でしたが、古美門ならば、すこしでも女性が多い理事会の時間を実際に計測し、統計を取ると思いました。その結果として「少しでも女性が多い会議は、そうではない会議に比べて何分時間が長い」という統計を提示したうえで「純然たる事実です」と突きつけるだろうなと。そんな妄想はよくします。


※写真はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

あと、裁判官を主人公にした作品は面白いと思っています。ドラマなどで、日本の裁判官は無個性に描かれてきたように感じていますが、裁判官だってそれぞれ個性があって、いろんなタイプの裁判官がいるはずです。そこをちゃんと描いていったら面白いですよね。

もし、裁判官を主人公にした作品を書くとしたら、主人公はものすごく横暴で「俺の法廷で好き勝手はさせない」という人にします。すぐ退廷を命じる裁判官がいいですね。

ー今後はどのような法曹ドラマが期待されると思いますか。

今までどおり、「正義の味方の弁護士が弱きを助ける」ドラマもあるべきですし、いろいろなタイプのドラマがあっていいと思います。やっぱり、ドラマは話が面白いということが一番大事なので、とにかく面白いものができてくれればいいなと思います。

「リーガルハイ」のときに発見したのは、「裁判で勝ったから幸せ、負けたから不幸」ではないということでしょうか。大事なのは、裁判の後、どう次の人生を踏み出し、歩んでいくか。裁判に勝ってむなしい気持ちになる人もいれば、負けても「全力でやるだけのことはやった」と前を向いて次に進める人もいる。視聴者が見ていて一番気持ちよくなるのは、実は裁判の勝ち負けではなく、その後の展開なのではないかなということに気づきました。現実においても、裁判の勝ち負けではないところにドラマがあるのではないかと思います。

【プロフィール】
古沢良太(RYOTA KOSAWA)
脚本家。1973年、神奈川県生まれ。ドラマ・映画・アニメ・舞台の脚本を多数手がける。代表作に『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)、『鈴木先生』(2011年)、『リーガルハイ』シリーズ(2012年〜)、『コンフィデンスマンJP』シリーズ(2018年~)など。2023年放映予定の大河ドラマの脚本も担当。


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