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弁護士をしながら裁判官に?「非常勤任官」東京弁護士会では約1.5〜2倍の応募

弁護士をしながら裁判官に?「非常勤任官」東京弁護士会では約1.5〜2倍の応募

1988年から始まった弁護士任官制度。ドラマ「イチケイのカラス」の入間みちお(竹野内 豊)も弁護士から裁判官になった設定のため、法曹以外の人たちにも弁護士任官制度は知られつつある。 弁護士任官には、常勤で勤務する「常勤任官」と、弁護士としての身分をもったまま週1日、特定の曜日に裁判所に登庁する「非常勤任官」がある。非常勤任官制度は2004年、弁護士任官の促進に向けた環境整備や調停手続の充実を目的に創設された。 いずれの経験も有する河野匡志弁護士(東京弁護士会・41期)のインタビューを2回に分けてお届けする。2回目は非常勤任官と裁判官の増員について紹介する(インタビュー日:2021年6月3日、オンラインにて実施)。 ※統計などのデータは「弁護士白書(2020年版)」と日弁連の「弁護士任官Q&A」を参照した。 【写真】写真は東京家庭裁判所(Caito / PIXTA)

非常勤任官、東京弁護士会では枠の約1.5〜2倍の応募

ーー常勤任官と非常勤任官には、どのような違いがあるのでしょうか。

非常勤任官は常勤任官とは違い、弁護士としての身分をもったまま、週1日、特定の曜日に裁判所に行くというものです。任期は2年で、1回だけ再任も可能で、最大4年間続けることができます。手当は1日あたり3万700円と交通費が支給されます(2020年10月1日時点)が、残業手当などはありません。現在は、120人(2020年10月1日時点で地裁に17人、簡裁に42人、家裁に61人)が非常勤任官として勤務しています。

担当するのは民事・家事調停事件のみで、地裁、家裁または簡裁に配属されます。民事・家事のどちらを担当するかは、応募者が希望を出すことができます。ただ、枠が決まっているので、希望が通らない場合もあります。私は2004年10月から東京地裁で民事調停官を務めましたが、希望は家事調停官でした。東京弁護士会に「家事の枠がないので民事にしてください」といわれたので、希望を変えた経緯があります。

ーー非常勤任官の数は毎年二桁(17〜58人の間で変動)ですね。なぜ、常勤任官者よりも人数が多いのでしょうか。


週に1回(月曜日から金曜日のいずれか1日)の執務でよいことに加え、弁護士をやめる必要がないことから、常勤任官よりも敷居が低いのだと思います。

常勤任官の場合は、完全に「転職」となります。今まで築いてきた顧問先などとの契約を切らなくてはいけませんし、個人事務所の場合は事件の引き継ぎなどの問題もあります。多くの場合は、若手の弁護士に事務所ごと引き継いでもらったり、親しい弁護士に事件を引き継いだりしているようです。


また、非常勤任官の場合、指名諮問委員会の審査はなく、実施庁の面接はあるものの弁護士会連合会などの承認を得られればほぼ採用されるので、審査における応募者の負担は少ないといえるでしょう。弁護士会内の審査を通らない人はいますが、裁判所の審査を通過できなかった例はほとんどないと理解しています。

東京弁護士会の場合、採用枠の約1.5倍から2倍程度の応募があるようです。日弁連も調停官制度の円滑な運営のために一定の努力義務を負っていること、制度の実施庁では毎週特定の日に調停官が執務することを前提に執務体制を組んでいることから、最高裁と日弁連の間では調停官の再任予定などの情報を共有するようにしています。そのため、各弁護士会などでも採用枠をみたすように努めており、希望者がいなければ、弁護士会によっては「やってみないか」と声をかけているところもあるのではないかと思います。

ーー制度開始(2004年)から17期(2019年10月1日~)までの非常勤任官の中からは、18人が常勤に任官されていますね(2020年10月時点)。

私も2004年10月から2007年3月までは非常勤任官でしたが、その後に常勤任官となりました。常勤任官の定年は65歳なので、常勤任官となったあと一定期間働けるようにするという配慮から、一般的に「非常勤任官時の年齢は55歳が限界」といわれています。

私が非常勤から常勤になった理由は、裁判官室の居心地や執務環境がよかったためです。弁護士をしていると電話などがかかってきて、思考が中断されてしまうことがよくありましたが、非常勤の調停官のときは電話に煩わされずに記録をじっくり検討できました。もちろん、裁判官もさまざまな事情で思考が中断されることはあるのですが…。気軽に質問ができたり、いろいろと教えてもらえたりする環境でもありました。

弁護士任官の増員を…弁護士の方が裁判官よりも「社会変化に敏感」

ーー裁判官の定員は、最高裁判所判事15人のほか、高等裁判所長官8人、判事2155人、判事補897人、簡易裁判所判事806人とされています(裁判所職員定員法、2020年4月時点の簡裁判事を除く裁判官の人数は2798人)。裁判官の定員が増えないのは、なぜでしょうか。

予算のほか、ヒューマン・リソースの問題があると思います。裁判所には全国で均質なレベルの維持が求められていますが、法学部や法曹の人気が低下した現状において、裁判官の大幅な増員はレベル低下を招きかねないという危惧があるかもしれません。

希望しても裁判官になれない修習生もいます。成績などが原因とされますが、定員や予算を踏まえた採用枠を前提として採用を考えた結果かと思います。


※写真はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

ーー現状でも裁判官は足りているといえるのでしょうか。

裁判官の適正人数についてどう考えるかは、裁判所にどのような機能を望むのかという問題と関連すると思います。

行政府での吟味と国会の審議を経て制定された法律について、個々の事案に当てはめる機能のみを期待するのであれば、現在の裁判官の人数でもやれているというのが実情かと思います。そのため、現状でも「裁判所は機能している」といえると思います。

もちろん、個々の裁判所における一時的な裁判官不足や、個々の裁判官において転任前に起案が集中することなどが生じるような、一時的な業務過多はありえます。しかし、転任まではなんとかこなしてしまう人が大半です。なお、特定の裁判所において本当に裁判官が足りない場合には、増員されることもあります。

ただ、行政府の法案作成機能の低下や国会の立法機能の不十分さを前提に、裁判所に法創造機能も期待するとしたら、わが国の裁判所は十分期待に応えられていないといえ、「裁判官が不足している」といえるかと思います。

日本はもともと大陸法型でしたが、戦後は(判例による法創造を重視する)英米流のコモンローの影響が高まっています。私としては、裁判所の法創造機能を充実させて社会変化に対応する必要があると考えています。そのためには裁判所の機能を強化する必要がありますし、裁判官、特に弁護士任官者の増加が望ましいと考えています。

なぜなら、依頼者と日頃接触して「生」の事件や問題提起に触れている弁護士の方が裁判官よりも社会変化に敏感といえますし、弁護士任官によってそのような感覚を持ち込むことで、裁判所の法創造機能を強化できるからです。

弁護士任官には法曹一元の架け橋としての機能も期待されています。多くの資質ある弁護士任官者に裁判所で活躍してほしいと思っています。





河野匡志弁護士プロフィール

41期・東京弁護士会所属。河野法律事務所。日弁連弁護士任官等推進センター、弁護士任官推進委員会(東京弁護士会)委員。2004年10月に民事調停官(非常勤任官)として東京地裁で勤務。常勤任官として2007年4月から横浜地裁判事、2010年から徳島地家裁判事、2013年から東京家裁立川支部判事を経験し、2014年3月に退官。同年6月に弁護士再登録。

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