法テラスの「費用対効果」を理由にした代理援助不開始に適法判決、弁護士法人側は控訴
日本司法支援センター青森地方事務所(法テラス青森)への民事法律扶助(代理援助)の申請に対し、「費用対効果」を理由に制度の利用を認めなかったのは違法として、青森県の弁護士法人「青空と大地」が法テラス本部に損害賠償を請求していた裁判で、青森地方裁判所八戸支部(岩崎慎裁判長)は5月19日、弁護士法人側の請求を棄却した。弁護士法人側は5月28日に控訴した。
「青空と大地」の橋本明広代表弁護士は、2018年4月、30万円の和解金の支払いを求める訴訟を提起された県内の住民の意向を受け、法テラス青森に代理援助の利用を申し込んだ。対して、法テラス青森は2018年5月、代理援助の不開始決定を通知。不開始の理由について、文書で「費用対効果の観点から代理援助になじまない」旨の説明があったという。
弁護士法人側は、2020年5月、援助開始要件にはない「費用対効果」を理由にした不開始決定は違法などとして、着手金や報酬金など、合計16万5160円を求めて青森地裁八戸支部に提訴していた。
「保護される利益有さず」と請求を門前払い
主な争点は(1)代理援助の不開始決定により橋本弁護士の着手金や報酬金を受け取る権利が侵害されたか、(2)「費用対効果」を理由にした代理援助の不開始決定は違法かーーの2つだった。
判決では、(1)着手金や報酬金を受け取る権利が侵害されたかに関し、代理援助申請時の橋本弁護士について「援助開始決定がされなければそもそも報酬金等が支払われる余地はなく、決定されても直ちに受任者となるものでも、報酬金等の支払いを受けられるものではない」として、「受任者」でなく「受任予定者」にとどまると指摘。「援助開始決定がされた結果として間接的反射的に生じ得るにとどまる」などとして、権利侵害はないと判断した。
費用対効果の検討「必要不可欠」
また、(2)費用対効果を理由にした不開始決定の違法性を巡り、判決では、代理援助について「利益を得る者の権利を実現することに資すると認められる限りにおいて行う」と規定した総合法律支援法の条文を引用。金銭請求事件では、必要な弁護士費用と、裁判によって得られる金銭的な利益の比較について、「検討が必要不可欠であることは明らか」として、違法性を認めなかった。「費用対効果は援助の要件ではない」とする弁護士法人側の主張は「独自の見解に過ぎず、採用することができない」とした。
代表弁護士「被告は法テラスを利用できなくなる」
橋本弁護士は、代理援助申請時に弁護士は「受任予定者」にとどまるため「権利侵害はない」とした判決について、「審査が通って3者契約して初めて受任者となる以上、申請時に受任予定者なのは当然」「裁判所は『弁護士は受任前なので権利が認められない』という形式論だけで判断している」と不満を示している。
費用対効果の検討が「不可欠」とした部分についても、橋本弁護士は、従来、金銭請求事件を提起された被告について、代理援助を申請して認められてきたとして「今回の判決の内容だと、金銭請求事件を提起された被告は、法テラスを利用できないことになってまう。経済的に余裕がなくても、弁護士に依頼して裁判を受けられる権利が保障されなければならない」とした。
また、橋本弁護士は、提訴の目的について、「単に着手金や報酬金を支払って欲しいということだけでない。裁判を通じて、法テラスに違法な審査を是正するよう求めていきたい」ともしている。弁護士法人側は5月28日、仙台高等裁判所に控訴済み。
判決について、法テラス本部は、「判決確定前のため、現時点では回答しかねる」とコメントしている。