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時代に合わせて変わるトラブルの 「カタチ」 ペット問題の解決に尽力した 20年 渋谷寛弁護士インタビュー〈後編〉

時代に合わせて変わるトラブルの 「カタチ」 ペット問題の解決に尽力した 20年 渋谷寛弁護士インタビュー〈後編〉

渋谷総合法律事務所(東京都新宿区)の渋谷寛弁護士は、長年にわたってペットの法律トラブルの解決に尽力してきた。時代の変遷とともにペットのあり方も変わり、それにともなって法的トラブルの内容についても変化している。「誰も手がけていなかった」(渋谷氏)ペット問題の解決に向けて、渋谷氏はどのような思いで活動しているのか、今回は渋谷氏が手がけた画期的な裁判「真依子ちゃん事件」のエピソードを中心にお届けする。 (弁護士ドットコムタイムズ<旧・月刊弁護士ドットコム>Vol.25<2017年10月発行>社会正義に生きる 弁護士列伝No.18より)

飼い主とペットの関係性を表した画期的な裁判を手がける

法律上、ペットは「モノ」として扱われる。一方で、なんらかの事故や医療過誤が起こった場合、飼い主に「慰謝料」としての意味合いを含んだ金額が支払われたケースは古くから存在する(1968年東京地裁判決)。しかし、ペットの財産価値と飼い主の精神的苦痛に対して支払われる金額は十分とはいえなかった。

「ペットが死んだときの慰謝料はだいたい5万円くらいですと、相談を受けたときには言っていたんです」そのような流れに90年代後半から少しずつ変化が訪れた。97年1月、大阪地裁で出産時の猫の死亡について猫2匹分の財産価値として70万円、弁護費用として10万円の合わせて80万円の支払いが命じられたのを皮切りに、2002年には宇都宮地裁で避妊手術の失敗で死んだ猫の飼い主に20万円の慰謝料を含めた総額約90万円の支払いも命じられている。

このような流れのきっかけとなった裁判のひとつを渋谷氏が手掛けている。2004年5月に判決が下された通称「真依子ちゃん事件」だ。

「糖尿病と診断されたメスのスピッツ犬『真依子ちゃん』なんですが、動物病院に入院後に死んでしまったんです。獣医師の説明も釈然とせず『なぜインシュリンを使わなかったのか』といった疑問にも答えてくれなかったそうです」

飼い主だった夫婦は、医療過誤訴訟を起こすために法律事務所を何件も回るも門前払い。眼前には「たとえ勝っても数万円」「それでは引き受けられない」という、高い壁がそびえ立っていた。

「どこかで私の噂をお聞きになって訪ねてこられたんです。人間の医療過誤訴訟だと何千万円とか1億円とか、勝てば弁護士報酬ももらえますけど、犬の事件だと勝ったってたかが知れていますからね。計算すると労力の割に報酬が上がらない。だから合わないって断っちゃう。私のところに来た飼い主さんは、本当に弁護士を探していましたから、お引き受けすることにしたんです」

渋谷氏と飼い主の闘いが始まった。

全国初の医療集中部での審理 飼い主の思いを受けた情熱が実る

渋谷氏は東京地裁の医療集中部に掛け合った。当然、人間の医療過誤訴訟を扱うための集中部であり、それまでペットの案件を取り扱ったことなどない。

「受付に話をしにいったのですが、前例がないからダメだ、一般民事で順番に配属すると言われました。そこをなんとかしてくれないかとお願いしたら、受付の書記官が医療集中部に電話してくれたんですね。そうしたらある部が3つあるうちのひとつが引き受けてもいいよと言ってくれました」

全国で初めて、犬の医療過誤事件が医療集中部で取り扱われることになった。人間の医療過誤訴訟と同じプロセスで審理が進んでいくため、証拠もABCで3つに分ける。A号証は、医療・看護・投薬行為等の診療経過の確定に関する書証。B号証は、医療行為等の評価、一般的な医学的知見その他これに類する書証。C号証は、損害立証のための書証。渋谷氏はそれぞれ証拠や資料を取り揃えていく。

争点は明確だった。糖尿病で血糖値の数値が高いのに、なぜインシュリンを打たなかったのか―だ。「血液検査の資料も取り寄せました。あとは糖尿病の場合、どういう治療をするのかという文献ですよね。糖尿病は膵臓から良いインシュリンが出なくなる病気ですから、外から注射を打つしかない。しかし、獣医師は打っていなかった。

真依子ちゃんは亡くなる直前に別の動物病院に転院しているので、転院先の獣医師の先生を証人に呼んできて、証人の先生にすぐインシュリンを打つべきだと思いましたと言ってもらったりもしました」

社会の成熟に合わせて 高額化が進む慰謝料

真依子ちゃんの医療過誤訴訟で渋谷氏らは、獣医師に対して約440万円の請求をした。その額について渋谷氏は次のように説明している。

「人間の子どもが交通事故で亡くなった場合、慰謝料の相場として『約2000万円』という金額があります。人間の寿命が約80年だとすれば、スピッツは約14年。2000万円の80分の14の350万円を慰謝料とし、治療費などを加えて算出しました」(「YomiuriWeekly」2014年3月21日号)

2004年5月10日、東京地裁で判決が下された。真依子ちゃんは糖尿病の治療が遅れたため死亡したと認められ、原告2人に対し慰謝料60万円を含む総額81万円の支払いが命じられた。この事件は高額な賠償責任を認めた裁判として、テレビや新聞などで広く報道されている。

「裁判長は医学のことをずいぶん勉強していて、我々が証拠を出した覚えのないことも判決文には書いてありました。すごいなと思いましたよね。スピードも早かったんです。通常2〜3年かかる内容だったのに、9ヵ月で判決出たんです。これも印象深かったですね」

ペットの医療過誤訴訟の賠償額が高額化していった背景には、人間とペットの関係性の変化が挙げられる。単なる飼い犬、飼い猫といった存在を大きく逸脱し、1人の(一匹の)家族として考える飼い主が増えている。ペットを取り巻く社会の成熟スピードに司法はまだ追いついているとはいえない。

「もう少しペットに理解のある裁判にしていきたいという思いはありますね。特に飼い主の慰謝料の問題です。もう少し高くなってもいいんじゃないかと思います。今の社会はペットと関わりが深くて共存共生と言われていますけど、司法がストップを掛けることがないようにしてほしいなと思いますね」

渋谷氏は今後もペットの関係した法律問題に悩む依頼者のために活動を続けていく。

インタビューの前編はこちら

渋谷寛弁護士プロフィール

明治大学法学部法律学科卒業。1985年に司法書士登録(東京司法書士会)後、1996年に弁護士登録(東京弁護士会)。1997年に渋谷総合法律事務所を設立。ヤマザキ動物看護短期大学講師、農林水産省内獣医事審議会委員、環境省内中央環境審議会委員(ペットフード安全法関係)、ヤマザキ学園大学講師、環境省中央環境審議会動物愛護部会動物愛護管理のあり方検討小委員会委員(動物愛護管理法改正関係)、八王子市動物愛護推進協議会委員、ペット法学会事務局次長などを歴任。「ペットのトラブル相談Q&A」「離婚・離縁実務マニュアル」「わかりやすい獣医師・動物病院の法律相談」など著書多数。

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