発症すると、肝炎としての症状だけでなく、肝硬変や肝臓がんなどのリスクが高まるB型肝炎。原因は、「B型肝炎ウイルス」への感染によるとされている。特に、昭和期に実施された集団予防接種で、注射針を使い回したことなどから、全国で40数万もの人がこのウイルスに感染したと推計されている。
そんななか、一部の患者が、国がウイルス感染の危険性を認識していたにも関わらず対策を怠ったとして集団訴訟を起こした。この訴訟は、裁判所の仲介のもとで和解協議が進められた結果、2011年6月に国が責任を認め、被害者給付等の措置をとる「基本合意」が結ばれた。その半年後には「特別措置法」が施行され、集団予防接種で感染したB型肝炎患者に給付金等が支払われるようになった。
給付を受けるためには、訴訟を提起して「裁判上の和解」を成立させる必要がある。しかし、全国B型肝炎訴訟弁護団によると、2013年10月1日時点で和解が成立しているのは約4800人にすぎないという。いま、B型肝炎ウイルス感染をめぐる救済の現状はどうなっているのだろうか。全国B型肝炎訴訟弁護団の坂本義夫弁護士に聞いた。
●自分が「感染被害者」であることを知らない人が多い
「国の推計によると、集団予防接種によってB型肝炎ウイルスに感染している被害者数は、40万人を超えるとされます。しかし、現時点で提訴に至った件数は、被害者数ベースで1万人にも達していません」
坂本弁護士はこう切り出した。なぜそんな状況になっているのだろうか。
「提訴者が少ない原因の第一は、自分が感染被害者であるかもしれないことを多くの方が認識していないことです。
そうなってしまっている原因は、1941年7月から88年1月までの間に生まれた誰もが感染被害者である可能性があるにもかかわらず、その事実の周知が不十分なためです」
多くの人が「被害を受けたこと」に気づいてすらいないということか。
「そうです。埋もれたままの被害がたくさんあると考えられます。まずは無料で受けられるB型肝炎ウイルス検査を受けてください。感染しているかどうかはすぐにわかります」
市区町村などが実施している血液検査を受ければ、すぐに結果は分かるようだ。対象世代に該当する人たちは、ぜひ受けたほうがよさそうだ。
●「救済制度」についての周知が不十分
坂本弁護士は続ける。
「提訴者が少ない第二の原因は、B型肝炎について、感染被害を救済する制度の存在や制度の内容についての周知が不十分であることです。
そのため、感染者であることを認識していても、提訴に至らない方がたくさんいるのです。
救済対象者かどうかの見極めには、専門知識を要します。そのため、中には自分は給付金を受けられないと誤解して、提訴に至らない例もあります」
つまり、「感染している」と認識している人の中にも、救済制度を知らなかったり、誤解しているため、救済に結びつかない人がいるということだ。
厚労省によると、制度の対象となりうるのは、7歳未満の子どものときに、集団予防接種などで注射器を使い回されて「B型肝炎ウイルス」に感染した人か、その人から母子感染した人とされる。ただし、予防接種を受けた時期は、国の責任を問える1948年から1988年までに限られるという。
「全国B型肝炎訴訟弁護団は、原告団とともに、国に対してこれらの周知徹底を求めるとともに、全国各地で被害相談会や医療機関・自治体への働きかけなどを行っています。
まずはウイルス検査をお受けになり、感染が判明した場合は、全国各地の弁護団にご相談ください」
坂本弁護士はこのように呼びかけている。