台風や大雨、地震などが引き金となり、一瞬にして尊い生命や住む場所が奪われる土砂災害。今年10月にも、台風26号の影響を受けた伊豆大島で大規模な土石流災害が起き、その様子は全国に伝えられた。あらためてその恐怖を思い知らされ、自分の住んでいる地域は大丈夫か、と心配になった人も少なくないだろう。
ところが、自治体が現地調査して「土砂災害の危険がある」と認定したのに、「土砂災害警戒区域」に指定されていない地域が、全国で4万9000カ所に及んでいることが、国交省の調査でわかった。報道によると、地価下落や過疎化などを懸念する住民の反発が「未指定」に影響を与えているという。
しかし、自然災害は住民の意志とは関係なく起きる。住民の反発と「警戒区域指定」の間には、本来直接の関係はないはずだ。「土砂災害警戒区域」は、誰がどのようにして指定するのだろうか。住民には「指定を認めない」と、異議を唱える権利が認められているのだろうか。後藤栄一弁護士に聞いた。
●最終的には「都道府県知事」が指定する
「『土砂災害警戒区域』が指定される際の流れは、大まかにいって次のようなものです。
(1)都道府県が土砂災害防止のために必要な基礎調査を行い、その結果を関係市町村の長に通知する。
(2)都道府県が住民説明会を実施する。
(3)都道府県知事が市町村長の意見を聴いたうえで『土砂災害警戒区域』を指定する。
なお、この警戒区域のうち、災害発生時の危険性が特に高いエリアについては、『土砂災害特別警戒区域』とされ、土地開発制限や建築制限がなされます」
では、住民側には「指定しないで」と異議を唱える権利が認められているのだろうか。
「住民は、住民説明会において質疑を行うことはできますが、それ以上に異議を唱える権利を認められているわけではありません」
それはどうしてだろうか。
●指定は「行政不服審査」の対象とはならない
「たしかに、『土砂災害警戒区域』として指定されると、その区域内の不動産の価値が下がることは否めず、その区域内に不動産を保有している人にとっては深刻な問題です。
しかし、『土砂災害警戒区域』の指定は、国民の権利義務を直接に形成したり、その範囲を確定したりするものではなく、行政の『処分』ではないため、行政不服審査の対象とはならないのです。
調査の結果として、区域内の危険が明白になったものですから、指定は止むを得ないと言うべきでしょう」
後藤弁護士はこのように指摘していた。
調査で危険が明らかになっているのに適切な指定がなされなければ、むしろ災害防止対策が遅れ、相対的なリスクは高まるといえる。住民や市町村にどのような説明・対応をしていくべきなのか、都道府県の力が試されていると言えそうだ。