ガチンコ勝負で人気を集めていたフジテレビの番組「ほこ×たて」で、「不適切な演出」があったことが発覚し、番組が打ち切りに追い込まれた。同局は11月1日に放送終了を発表するとともに、ウェブサイトに謝罪の言葉を掲載した。
「ほこ×たて」はバラエティ番組だが、真剣勝負の「対決」がウリで、番組内外でもその点を強調していた。ところが10月23日、元軍人のスナイパーが「逃げるラジコン」を銃で撃つという対決に出演した人が「番組内容は全くの作り物」とネットで告発し、大問題となったのだ。
●フジテレビは再発防止のための「対策委員会」を設置
その告発によると、実際にはアクシデントで中止された男性スナイパーとラジコンカーの対戦が、あたかも行われたように放送されていたり、対決の順番が編集で入れ替えられていたりと、放送内容が収録時とは大きく異なるものだったとしている。
また、この出演者が2012年に出た《猿がラジコンカーを捕まえる》という対決でも、ラジコンと猿を釣り糸で結ぶ細工をして、猿がラジコンを追いかけているように見せかけた、などと主張していた。
この告発について、フジテレビは「大筋において事実であり、不適切な演出があったことが社内の調査で確認された」と認めた。そして、「ほこ×たて」の打ち切りと、再発防止のための対策委員会の設置を決めたのだった。
このような番組内での「やらせ」は、視聴者の信頼を大きく裏切る行為だ。BPO(放送倫理・番組向上機構)で問題にされるだけでなく、なんらかの法律に違反するといえないだろうか。たとえば、視聴者をだましているとして、詐欺罪に問われたりしないのか。折本和司弁護士に聞いた。
●実体は「詐欺」ともいえるが・・・
「このたびのフジテレビの『ほこ×たて』における『やらせ』は、バラエティとはいえ『真剣勝負』をうたっていた番組で、本来の経過とはまったく異なる編集を行い、勝負の結果まで作り変えていたというのですから、視聴者を欺く行為であることは明らかです」
このように折本弁護士は一刀両断し、「その究極的な目的は、視聴率を上げ、スポンサーからより多くの広告料を得るためでしょう」と指摘する。
「その実体は『詐欺』ともいえますが、刑法上の『詐欺罪』として罰せられることはないでしょう。重層的な組織の中での行為であり、このような番組の制作においては、『誰が』『誰を』だまし、『誰から』『どのような財産上不法の利益を得たか』を確定することは難しいため、基本的に個人を対象とする刑法事犯の構成要件にあてはまりにくいといえるからです」
●「過剰な演出」を防ぐ仕組み作りが必要
どうやら犯罪となる可能性は低いようだが、「フジテレビ系列では、過去にも同様のやらせがあったことからして、極めて悪質といえます」と折本弁護士は述べる。「明確な法令違反にはあたらないとしても、放送倫理として大いに問題があると言わざるを得ない」というのだ。
「ほこ×たて」はバラエティ番組だが、テレビ局は報道機関としての顔も持つ。その点を踏まえ、折本弁護士は次のように警告を発している。
「今回の『やらせ』問題は、表現の自由の重要な担い手であるテレビ局が、本来の使命を見失って、金儲けのために視聴率至上主義に陥っていることの表れといえます。このようなことが続くと、報道機関によってチェックされるべき政治権力の側からの介入の口実を与えることにもなるわけで、民主主義の危機にも繋がりかねない事態だと言っても、過言ではありません。
今後は、BPO等で徹底した検証を行って、業界内部で再発を防ぐための重いペナルティーを課すとともに、『やらせ』を含む視聴率稼ぎのための過剰な演出を防ぐ仕組作りに取り組まなければ、テレビ業界に健全な未来はないでしょう」