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サイボウズ青野社長「棄却は最高裁まで来いというメッセージ」 夫婦別姓訴訟、控訴へ
東京地裁での判決を受け、会見する青野慶久氏(左)と代理人の作花知志弁護士

サイボウズ青野社長「棄却は最高裁まで来いというメッセージ」 夫婦別姓訴訟、控訴へ

2015年に最高裁で夫婦同姓を合憲とする判決が下されてから約3年。新たに選択的夫婦別姓を求める裁判が昨年、複数提訴されたが、その最初となる判決は厳しいものだった。婚姻時に夫婦が別姓を選べない戸籍法は、平等を保障する憲法に反するとして、ソフトウェア企業「サイボウズ」の社長、青野慶久氏ら4人が国を相手に計220万円の損害賠償を求めていた訴訟で、東京地裁(中吉徹郎裁判長)は3月25日、原告の請求を棄却した。

「判決を聞いた時、ガラガラと崩れるような気持ちでした。ロジックもわかりやすかったし、論理的に考えれば違憲判決が出ると思いましたが、スルーされました」。判決後に東京・霞が関の司法記者クラブで開いた会見で、青野氏はそう語った。

原告側は、日本人のカップルが離婚した際に戸籍法の手続きをすれば「婚氏続称」ができることや、日本人と外国人が結婚した際も夫婦別姓が選べるのに対し、日本人のカップルが婚姻する時だけ「戸籍法上の氏」が選択肢にないのは違憲であると訴えた。

つまり、「民法上の氏」では同姓であっても、「戸籍法上の氏」を戸籍法を改正して認めれば、選択的夫婦別姓が可能であるという主張だ。

しかし、判決では「法律上の氏は一つである」として、これらの主張は認められなかった。代理人の作花知志弁護士によると、「2015年の最高裁判決から進歩のない判決」だったといい、控訴する方針を明らかにした。

青野氏は、「地裁や高裁では憲法判断はしない。最高裁まで来いというメッセージだと、ポジティブに受け止めたい」と語り、控訴審に期待を寄せた。

●「立法してくれれば解決する」

この日、東京地裁で最も大きな法廷である103号法廷は、開廷の1時間以上前から傍聴に訪れた支援者らが列をつくり、ほぼ満席となった。原告の訴えを棄却するという判決が告げられると、法廷は静まり返った。判決後にロビーで涙を見せる人もいた。

青野氏は会見であらためて、夫婦別姓問題について「これはイデオロギーではなく、具体的な困りごと」と主張した。青野氏は今回の裁判を通じて、結婚した際に妻の姓になった結果、経営者としてどれだけ経済的な不利益を被ってきたかを自身の声で訴えてきた。

青野氏は「判決は残念」とする一方、「世論は大きく動いたという手応えはある」と話した。「提訴から1年、多くの人がこの問題を議論してくださった。すべての夫婦を別姓にしようという話ではなく、別姓にしたい人は別姓にしよう、選択肢を用意しようということです。誰も困らない訴えであることが広まった」

今、全国の地方議会では選択的夫婦別姓を求める陳情や請願が採択され、国会に意見書を出す議会も続出している。青野氏は、4月には統一地方選、7月には参院選があることを指摘、政治へのアクションも訴えた。

「選択的夫婦別姓は何十年も議論され、国会で論じられるものだと最高裁が示しているにも関わらず、政治はこれを放置してきました。判決ではこれをおかしいという声を司法として上げていただきたかったが、進歩がなかった。

この問題は、自民党の国会議員が前向きに議論し、立法してくれれば解決すると思っています。しかし、実現できていないのは、私たち国民の責任でもある。裁判では力及ばずの結果になってしまったが、これを問題だと考える皆さんには民意を示していただきたいと思います」

●「裁判官自身が法律上根拠のない通称で判決」

一方、作花弁護士も会見で控訴審への意欲をのぞかせた。

「国側の主張を採用している判決で、がっかりしています。2015年判決から進歩のない判決でした。こちらは、戸籍上の夫婦別姓が一番簡単に実現できる上、実務担当者にもわかりやすいとする、法務省で戸籍担当をされていた方による論文などを示しましたが、根拠のない国側の主張を採用されています。

離婚後の婚氏続称や外国人と結婚した日本人の例をみても、二つの姓が実在しているのにも関わらず、裁判所は『法律上の氏は一つであって、二つには分かれない』ということを繰り返し判決で言われています。

控訴審ではさらに主張を整理していきたい。最終的には最高裁で判断していただき、早く問題を解決したいと思っています」

また、裁判所自身が抱える問題も指摘した。

「2015年に最高裁判決が出て、民法で別姓は認められないが、旧姓を通称使用することは裁判所でも認めるようになりました。つまり、裁判官は法律上の根拠のない通称で判決などの国家文書を作っていることになる。国民からこの判決は法律上の根拠がないと言われたら、どうこたえるのか。裁判所自体が、選択的夫婦別姓制度を求めている時代です」

(弁護士ドットコムニュース)

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