アーノルド・シュワルツェネッガーが殺人ロボット役を演じた映画「ターミネーター」。現実の兵器開発はそんなSF映画の世界に近づいているようだ。殺人ロボットの開発に歯止めをかけるため、各国が協議すべきだと、国際的な人権団体である「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が声明を発表したのだ。
「殺人ロボット(キラーロボット)」と呼ばれる完全自律稼働型兵器そのものは、まだ開発されているわけではないが、それにつながる技術の開発は進んでいる。HRWはウェブサイトで、このような兵器開発の現状を紹介し、「SF小説の悪夢が恐ろしい現実になる危険がある」と警告している。
このような殺人ロボットに対する懸念は主に海外で表明されているが、日本もひとごととは言えないだろう。法律上、こうしたロボットを日本国内で開発することは可能なのだろうか。ヒューマノイドロボットの安全性の問題に取り組む小林正啓弁護士に聞いた。
●禁止提言は「完全自律型ロボット兵器」が対象
「殺人ロボットというとセンセーショナルですが、この問題は冷静に、場合分けをしたうえで議論する必要があります」
小林弁護士はこう切り出した。
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が禁止を提言しているのは、完全自律型ロボット兵器(Fully Autonomous Weapons)です。無人航空機『プレデター』などの半自律・遠隔操作型ロボット兵器は含みません。HRWは、遠隔操作型ロボット兵器の使用を"推奨"すらしています」
どこに違いがあるのだろうか。殺人兵器という意味では同じでは?
「完全自律型ロボット兵器と、半自律型ロボット兵器の違いは、人間を攻撃する際の決定を、人間が下すかどうかです。完全自律型ロボット兵器の場合、その判断をロボット自身が行い、半自律型では人間が行います。
戦場で完全自律型ロボット兵器と遠隔操作型ロボット兵器が戦えば、完全自律型ロボット兵器が勝つでしょう。判断する時間が、人間に比べ、ケタ違いに短いですから。ちなみに、映画の『ターミネーター』は、完全自律型ロボット兵器にあたります」
●民間人と戦闘員の区別が機械にできるのか
なるほど、それではなぜHRWは、完全自律型だけを問題視しているのだろうか。
「HRWの懸念は、完全自律型ロボット兵器が、戦闘員と民間人を区別するかどうかが保証されていない、つまり、戦時国際法が遵守される保証がないという点にあります。
特に、市街戦やゲリラ戦、テロとの戦いなどの現代型戦争においては、戦闘員と民間人を区別することは困難ですから、完全自律型ロボットは、人であれば誰でも攻撃するプログラムを備える可能性があります」
民間人への攻撃は、戦時国際法違反になるため、特に問題が深刻と考えられているのだろう。小林弁護士は続けてこう話す。
●クラスター爆弾や対人地雷と共通する問題
「戦闘員と民間人を区別せず攻撃する兵器としては、完全自律型ロボット兵器以外にも、対人地雷やクラスター爆弾があります。対人地雷については、1997年に、いわゆるオタワ条約が締結され、日本も批准しました。また、クラスター爆弾については、2008年に、いわゆるオスロ条約が締結され、日本も批准しました。
その結果、日本では、対人地雷やクラスター爆弾の開発・生産・使用などが禁止されています。HRWが目指すのは、完全自律型ロボット兵器についても、対人地雷やクラスター爆弾のような禁止条約を締結することと思われます」
民間人に多くの死者が出るのであれば、対人地雷などと同じく、使用禁止も視野に入るだろう。それでは、たとえば日本が「完全自律型ロボット兵器」の開発に関わる可能性はあるのだろうか。
「日本でも、ロボット兵器の研究開発が進められているとは思います。完全自律型ロボット兵器の研究開発や製造を禁止する法律はありませんので、研究開発自体は自由です。
ただし、武器等製造法によって、銃砲や爆発物等の製造は厳しく規制されています。また、ロボット兵器やその部品、プログラムの海外持ち出しは、外為法によって規制されていますし、いわゆる武器輸出三原則によって輸出が制限されることになります」
小林弁護士が言うように、ロボットを制御する技術の開発が進んでいることは、想像に難くない。今後、完全自律型ロボットが兵器として実際に使用される可能性が高まってくれば、日本がどこまでそれに関与して良いのか、より深い議論が必要となってくるだろう。