集団的自衛権について、これまで日本政府は「国際法上は保有しているが、憲法第9条の解釈からすると行使できない」という立場をとってきた。内閣法制局長官も同様の答弁を繰り返してきたが、8月に新たに就任した小松一郎長官は、日本が集団的自衛権を行使することに前向きだと見られている。
この内閣法制局長官には、法務、財務、総務、経産省の出身者が、ナンバー2である内閣法制次長を経て就くのが通例だった。外交官出身で元・駐仏大使の小松氏の抜擢は「異例」だ。集団的自衛権の行使に積極的な安倍内閣の意向に沿った人事だと言われている。
そもそも、内閣法制局の役割とはどういうものなのだろうか。そして、内閣法制局の憲法解釈にはどれだけの重みがあるのだろうか? 衆議院議員の経験をもつ松原脩雄弁護士に聞いた。
●内閣法制局は「閣議に付される法律」を審査する
「内閣法制局は、内閣に設置される行政機関です。内閣法制局の主な任務は『閣議に付される法律案等を審査し、これに意見を付したり、所要の修正を加えて内閣に上申すること』です」
――内閣法制局長官の位置づけは?
「内閣法制局長官は、内閣が任命する官僚で、行政組織の一員です。現在の任命権者は安倍晋三総理で、安倍総理の指揮統制下にあります。したがって、長官が総理の意思に沿って職務を行ったところで、法的な問題は全く生じません」
――それでは、なぜこんなに話題に?
「これが第一級の政治問題としてにわかに浮上したのは、このたび任命された内閣法制局長官が、安部総理と同じく『日本国憲法は集団的自衛権の行使を認めている』と公言したためです。これは従来の憲法解釈の大幅な変更になります」
――具体的には?
「話を整理しましょう。
政府や内閣法制局のこれまでの解釈は、『日本は集団的自衛権を持っているが、憲法が行使を禁じている』というものです。日米の安全保障という観点から批判がありましたが、この解釈は頑なに守られてきました。
一方、安倍総理の解釈は次のようなものです。集団的自衛権は、国連憲章51条に明記された国家の固有の権利だ。国連憲章を前提に制定された日本国憲法は、集団的自衛権の行使を容認している。これは、第一次安倍内閣の時にできた総理の私的諮問機関『安保法制懇』の報告書に基づく考え方です」
――2つは全く違う。
「そうですね。そもそも安部総理の属する自民党自体が、従来の内閣法制局見解を維持してきたのですから、論理的・政治的議論が沸騰することは間違いがありません」
●内閣法制局は「憲法の番人」
――内閣法制局はその中で、どんな位置付けにある?
「内閣法制局は、内閣における『憲法の番人』と言われています。内閣提出のあらゆる法令が憲法に抵触しないか、厳格に審査することを職務としているからです」
――ということは、その長官の発言内容は大きな重みがある?
「そうですね。ただし、行政は継続性を重視しますから、従来取ってきた憲法解釈を変更することに抵抗する人々も、内部には数多くいるでしょう」
――そもそも、なぜいま「集団的自衛権」が話題になっている?
「北朝鮮がアメリカに向けて発射した弾道核ミサイルを、日本のイージス艦が迎撃ミサイルで撃ち落とすことを想定した場合、集団的自衛権行使の合憲性が問われることになるからです。
この問題は避けて通れません。日本国憲法を直視し、これに対する答えを探すという政治的実践的思考が、いままさに求められているのではないでしょうか」