日本でもファンが多い女子プロテニスのマリア・シャラポワ選手(26)が、商品のキャンペーンのために「名字」を変更しようとしていたことが報じられた。自らの会社が販売するキャンディのブランド名にあわせて、「シュガーポワ」に改名しようとしたのだ。
しかも、変更するのは9月9日まで行われている全米オープンの期間中だけで、大会が終われば再び「シャラポワ」に戻す予定だったという。結局、「スケジュールの都合」で断念したようだが、スター選手の改名騒動は世界を驚かせた。
日本のスポーツ選手で、ここまで大胆な宣伝を仕掛ける選手はおそらくいないだろう。だが、もしシャラポワ選手のように、商品の宣伝を目的として名前を変更しようとしたら、認められる可能性はあるのだろうか。日本の事情について、藤本尚道弁護士に聞いた。
●日本では間違いなく「門前払い」
「シャラポワ選手がしようとした名字(氏)の変更は、日本の家庭裁判所では100パーセント認められないと断言できます」
――なぜ、そこまで言える?
「名字の変更が認められるには『やむを得ない事情』が必要だからです。裁判例をみると、名字の変更が認められるのは、それが許されなければ、その人に相当重大な不利益がある場合に限られています」
――どんな場合なら「やむを得ない事情」になる?
「たとえば、名字によって深刻ないじめや、いわれのない差別を受けているような場合です。
また、戸籍上の名字を見るたびに、幼少時に受けた性的虐待の加害者(近親者)のことを考えてしまうため、強い精神的苦痛を受け続けている、として変更を認めた例があります。
他には、真摯に更生しようとしているにも関わらず、元暴力団員としての氏名が知れ渡っているため社会生活上の支障が生じている、という例もありました」
●名前がころころ変わると誰が誰かわからなくなる
――なぜそんなに厳しいの?
「まず、氏名は個人を識別するうえでたいへん重要なものです。容易に変更を許せば、権利義務に関する一般的な法的秩序に混乱が生じてしまいます。要は、好き勝手な変更を許せば、誰が誰なのか分からなくなってしまうということです。
また、そもそも名字は親族関係や血縁関係を示すものです。結婚・離婚、養子縁組・離縁などを伴わない変更が増えれば、戸籍制度の秩序も乱れてしまいます」
――そうなると、CMのための変更はあり得ない……。
「そうですね。宣伝のため、ブランド名にあわせた名字に変更するというのは、とうてい『やむを得ない事由』とは言えないでしょう。
シャラポワ選手は今回、『スケジュールの都合上、断念した』という格好のようですが、日本だったら間違いなく門前払いです。
アメリカの事情はわかりませんし、これはうがった見方かも知れませんが、もしかすると改名申請そのものが単なる話題作り……裁判所を巻き込んだ『とんだ茶番劇』だったのかも知れませんね」