4月下旬に劇場公開され、現在上映中の映画「図書館戦争」。人気作家・有川浩さんの同名小説を実写化したものだ。図書館戦争の舞台は近未来の日本で、「正化31年」という架空の年号の時代。そこでは、「メディア良化法」という名のメディアを規制する法律が施行されていて、「公序良俗を乱し、人権を侵害する表現」が取り締まりの対象となっている。
いまの日本でも、名誉毀損など他人の権利を侵害する表現は違法とされて、損害賠償の対象となる。しかし、図書館戦争に登場する「メディア良化法」は、政府による「検閲」を認めているという点で、現在と大きく異なっている。法務省に設置されたメディア良化委員会の指示のもと、各都道府県に置かれた「良化特務機関」が、公序良俗に反する書籍や映像作品、音楽作品を取り締まるのだ。
この特務機関の職員は、小売店に対する入荷作品の検閲や販売元に対する流通差し止め命令、マスコミに対する放送禁止あるいは訂正命令などの権限をもっている。テレビ局や出版社、販売店は検閲対抗権を持たず、一方的に特務機関の検閲を受け入れるほかないが、唯一図書館だけが「図書館の自由法」を盾にして検閲に対抗するという内容だ。
今の日本で、もし「メディア良化法」のような法律ができたら、図書館や国民はそれに対抗して立ち上がることができるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。
●「メディア良化法」が憲法に反するのは明らか
「図書館戦争の『メディア良化法』は検閲等を合法化する法律であり、明らかに違憲です。具体的には、憲法21条2項の『検閲の禁止』に違反します」
このように齋藤弁護士はキッパリ言う。
「表現の自由(憲法21条1項)は、国民主権のために不可欠の権利です。また検閲禁止は、この自由を保障するために、なくてはならない規定です。つまり、『メディア良化法』は単に違憲というだけでなく、国民主権という大原則までも骨抜きにする存在で、民主主義とは全く相容れません」
しかし「図書館戦争」の中では、裁判所が判断を下すところまでいたらず、「違憲状態」が継続している。そんな中で、国民自身が直接できることはあるだろうか。
「このように重大な憲法秩序の危機に際しては、『抵抗権』を行使することが可能になると考えられます。抵抗権とは、政府が権力を乱用して立憲主義憲法を破壊した場合に、国民が自ら実力で抵抗し、立憲主義・憲法秩序の回復を図る権利です。
抵抗権そのものが憲法に書かれているわけではありませんが、それを認めていると考えられる判決もあります。札幌地裁昭和37年1月18日判決は『抵抗権』を行使するための要件として、(1)民主主義の基本秩序に対する重大な侵害が行われ憲法の存在自体が否定されようとしていること、(2)不法であることが客観的に明白であること、(3)抵抗以外の手段がないことの3点を挙げています」
――では、万が一『図書館戦争』のような事態が生じたら・・・・。
「メディア良化法が制定され、裁判所も同法をチェックしない状況は、抵抗権の行使が許される状況だと思われます。図書館自体は個人ではなく権利を持ちませんが、それでも民主主義的な秩序を回復するという観点から、図書館がメディア良化法に抵抗して立ち上がることは憲法上許されると考えます」
齋藤弁護士は、そう語った。
日本国憲法12条には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」とある。抵抗権を使わなければならないような事態に陥らないように、国民もしっかりと政治をチェックする義務があるということだろう。