今年1月に全国で初めて制定された大阪市の「ヘイトスピーチ対処条例」について、憲法学者が解説する講演会が3月3日、東京・永田町の参議院議員会館であった。同条例は、憲法が保障する「表現の自由」を侵すのではないかと懸念する声もあるが、登壇した京都大の毛利透教授は、「違憲とされるほどではないと思う」と話した。
条例は、ヘイトスピーチを「人種や民族を理由に、個人や集団を社会から排除することを目的として行われる表現活動」などと定義。ヘイトスピーチと認められれば、同市に関わるものに限り、市長が内容の拡散防止に必要な措置を取るとともに、ヘイトスピーチをした側の氏名を公表するなどと定めている。
毛利教授は、大阪市の条例について「(氏名の)公表しか措置として置いておらず、強制的なところがない」ことを理由に、「効果が薄いことと裏腹なんですが、違憲とされるほどではないかなと思います」と解説した。
氏名の公表については、「ヘイトスピーチをする側にとっては、(存在を)知ってほしいという側面もある」とも言い、名前を公表するだけでは抑止につながらない可能性があることを指摘。「大阪市が『ヘイトスピーチは望ましくない』という態度と一緒に(氏名を)公表することで、抑止につながるのではないか」と述べた。
●「刑罰を考えるなら、それに即した定義を」
毛利教授は憲法学者の立場から、条例のもとにもなった答申の作成に携わった。答申はもともと、公費によってヘイトスピーチ被害者の訴訟を支援することを目的にしたものだったという。刑事罰は「そもそも検討対象になっていなかった」そうだ。
そのため、今回の条例におけるヘイトスピーチの定義は「訴訟を支援するための定義」であり、毛利教授は「刑罰ということを考えるのであれば、それに即した定義をしないといけないと思う」と慎重な姿勢を示していた。
条例は、今年7~8月に施行される見通しだ。