弘法大師・空海が開いた「高野山真言宗」の執行部トップが4月下旬、辞任を表明した。今年2月に資産運用の失敗が発覚し、宗派内で混乱が続いていた。
朝日新聞によると、高野山は総額で30億円を金融商品に投資し、一時は15億円を超える含み損を抱えていたという。金融商品には、外国債などハイリスクなものも含まれていたが、原資の大部分は、お布施やさい銭といった非課税の「浄財」だった。
布教活動の資金や施設の拡充のために、堅実な資産運用を行うこと自体は、信者にも納得されるだろう。しかし、高いリスクを伴う金融商品への投資などは、失敗すれば元本を割り込むような損失が出る危険性もありる。宗教法人の財産運用にルールについて、玄君先弁護士に聞いた。
●宗教法人は「その目的に反しない限り」公益事業以外の事業を行ってもよい
「高野山真言宗のような宗教団体が、宗教活動の経済的基盤を安定させるために、公益事業以外の事業を行う必要があることは否定できません。
宗教法人法も、このような観点から、宗教法人の権利能力を『目的の範囲内』に限定する一方、 『その目的に反しない限り』、公益事業以外の事業を行うことを認めています(同法10条、6条2項)」
玄弁護士はこのように説明する。もっとも、宗教法人が資産運用として行う「金融取引」をめぐっては、「現在のところ、どのような取引が『目的の範囲内の取引』と評価できるかについて、判例によって明確な基準が示されているわけではない」とも話す。
では、今の経済情勢を踏まえて、宗教法人の金融取引は法的にどう位置づければよいのだろうか?
「宗教法人も、教義を普及したり、信者を教化育成したり、礼拝施設など財産の維持管理を行ったりすることとの関係で、資産運用は必要といえます。そして、場合によっては、ある程度リスクの高い『金融商品』に投資する必要性があることも否定できないでしょう。
すなわち、低金利時代の昨今において、銀行預金などに比べてリスクの高い金融商品に投資すること自体では、宗教法人の『目的の範囲外』といえないだろうと思われます」
●むやみに投機的な資金運用をして保全すべき財産が失われたら「解散命令」も
報道によると、高野山は総額で30億円を金融商品に投資し、一時は15億円を超える含み損を抱えていたということだが・・・。
「もちろん、むやみに投機的な資金の運用を図って、宗教法人を保全するための財産が失われることになれば、宗教法人として失格、つまり解散命令ということになりかねません。
宗教法人が銀行預金などに比べてリスクの高い金融商品をもって資産運用する場合にも、宗教法人の『資産全体の毀損可能性の大小』を検証することは最低限必要であろうと考えます」
とんでもない金額の資産運用の失敗が発覚した伝統宗教の宗派だが、お布施した信者や支援者たちの意思に反しないように今後は精進してもらいたいものだ。