法務省は11月5日、法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格が得られる「予備試験」の今年の合格者が394人だったと発表した。前年よりも38人増えて、過去最多を更新。試験が始まった2011年以降、4年連続の増加となった。
今年の受験者数は1万334人で、職種別では、大学生が2875人でトップ。無職2233人、法科大学院生1710人と続いた。一方、合格者数では、大学生が156人でトップ、法科大学院生137人で、その他大学院生1名と合わせて、現役学生が全体の75%になった。
一方、9月に発表された今年の司法試験(本試験)の合格者をみると、予備試験を突破した人が186人を占め、初めて全体の1割を超えた。
予備試験はもともと、経済的な事情などで法科大学院に通えない人のための例外的な制度として導入されたが、実際には法曹界への「最短ルート」「抜け道」になっているとの指摘がある。今後も予備試験合格者を増やすべきなのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に聞いた。
●「水準に達しない法科大学院への刺客」
以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、26人の弁護士から回答が寄せられた。
1 予備試験合格者を増やすべき → 16人
2 予備試験合格者を減らすべき → 3人
3 どちらでもない → 7人
<予備試験合格者を増やすべき>との回答が半数以上を占めた。そのなかには、現状の法科大学院が当初期待されていた機能を果たしていないとして、その「代替手段」として予備試験の活用を主張する意見があった。「水準に達しない法科大学院への刺客」として、予備試験合格者を司法試験に参加させることで、法科大学院にとっても刺激になるとの声もあった。
また、「経済的理由や、家庭の理由で受けられない人を極力少なくするべき」だとして、金銭的、時間的負担の大きい法科大学院に行かなくても司法試験の「受験資格」が得られる予備試験を活用して、法曹への門戸を広げるべきだという声も目立った。
一方、<予備試験合格者を減らすべき>との回答には、現状の予備試験は、経済的事情で法科大学院に行けない人のために設けられたという当初の趣旨から大きく逸脱しているとして、法科大学院の充実を求める声があった。
<どちらでもない>の回答の中にも、法科大学院のスタートによって、プロセス重視の法曹養成を目指したはずなのに、予備試験で司法試験の受験資格が得られるのは制度の趣旨に反しているとして、廃止を主張する意見がみられた。
また、「合格者数の議論は、法科大学院の存続や教育内容の自由化など、他学部を出て法曹を目指す方に対する法教育のあり方とセットで議論しなければ、全く意味がない」として、法教育全体の見直しをすべきとの意見もあった。
回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士21人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、増やすべき→減らすべき→どちらでもないの順)
●予備試験合格者を増やすべき
【兼光 弘幸弁護士】「司法試験に合格するために、ロースクールに2年も3年も行き、さらに、修習生になっても給料をくれない。そんな現実を踏まえると、余程、お金に余裕がある家庭じゃないと支えきれない。となると、司法試験に受かる弁護士や検察官、裁判官はお金持ちの子どもばかりとなってしまう。そんな人に一般庶民の気持ちが分かる?一般庶民を裁くことができる?大いに疑問がある。予備試験組は絶対に増やさないと行けないし、そもそもロースクールは廃止しなければならない」
【杉山 伸也弁護士】「法科大学院が当初期待された機能や目的を果たしているとは言い難い現状では、むしろ『水準に達しない法科大学院への刺客』として予備試験組を広く司法試験のステージに参加させることが法曹全体の質の向上につながると思います。予備試験組が刺客だとすれば、法科大学院としては水準の高い卒業生を輩出して堂々と返り討ちにすればいいし、それすらできない法科大学院なら淘汰されればよい」
【中村 晃基弁護士】「予備試験合格者の『割合』を増やすべきという趣旨です。司法試験合格者数全体についてはむしろ1500人程度まで減らすべきです。私は、法学書院でH23~H25まで論文試験の参考答案・解説作成を行っていましたが、予備試験レベルは非常に高く、『予備試験合格者は司法試験受験不要では』と思えるほどでした。また、法科大学院制度は、既に破綻状態であり、予備試験との間で原則・例外を区別する必要性もありません。司法試験合格者1500人とすると、半分の750人は予備試験出身者が占めてよいと思います」
【中井 陽一弁護士】「司法試験は、純粋な競争試験・学力試験であるべきであって、経済的理由や、家庭の理由で受けられない人を極力少なくするべきではないかと考えます。ロースクールを卒業しないと司法試験を受けられないというのでは、どうしても経済的理由や家庭環境などの理由で受験をあきらめる人が出てくると思いますので、純粋に学力や知識を問う予備試験の門戸を広くした方がよいと思います」
【塩見 恭平弁護士】「司法試験への参入障壁は能力以外にあってはならないと思います。法科大学院を卒業しなければ原則として受験資格を認めないという現状は歪です。私は法科大学院卒の弁護士ですが、司法試験の受験資格と関係がないのであれば、法科大学院への進学はしなかったと断言できます(中での教育は素晴らしいもので、行ったこと自体はよかったと思っていますが)。誰でも受験可能であるからこそ、多様なバックグラウンドを持った法曹が生まれると思います」
【岡田 晃朝弁護士】「年齢や属性にかかわらず、客観的に見て能力がある人間が金銭的負担なく、法曹になる道は拡充していくべきです。法科大学院に多額の費用が掛かる以上、その卒業を受験要件にすれば、結局、法曹資格は、一部のお金持ちのための資格になってしまいます。それが社会にメリットがあることだとは思えません。仮に多様な人材を確保する必要があるとしても、まずは法曹としての能力を大前提にすべきですし、法曹としての能力があるならば、法科大学院に通わなくても法曹になる道はあるべきでしょう」
【濵門 俊也弁護士】「法曹になろうとする者の門戸を狭めることはあってはならないと思います。学歴や国籍、資力の多寡を問わない予備試験こそより多様な法曹が期待できる土壌のような気がします。予備試験は司法試験受験資格を得るための試験でありますが、難易度は司法試験を超える面もあり、その合格者の実力はなかなかのものがあります。実際の司法試験合格者における予備試験合格者の割合は、そのことを物語っていると思います」
【菅 一雄弁護士】「現状は、法科大学院出身者が不当に優遇されていると思われます。法科大学院出身者以上の実力者が司法試験の受験の機会を与えられないのは不公平です。司法試験合格者自体は減らすべきと私は考えますし、法科大学院制度自体の是非も根本的に再検討すべきと私は考えますが、それはそれとして、現状の不公平の是正方法としては、まずは受験資格の門戸を広げる方向で、予備試験合格者を増やすべきです」
【西口 竜司弁護士】「予備試験の存在により法学部生は勉強をするようになります。勉強をすることにより結果として予備試験を不合格になった場合にも批判能力を備えて法科大学院に入学できます。そのことにより法科大学院の底上げにあるかと考えます。また、社会人にとっても失職のリスクを避けることができます。その結果、法科大学院が当初目指した多様な人材の確保につながると思います」
【鐘ケ江 啓司弁護士】「ロースクールに受験資格を限定しようとするのは、不合理な参入規制です。また、司法試験の勉強は、法律家として活動するための基礎体力をつけるという重要な役割があります。多くの人が競争に参加して、さぼっていたら不合格になるという危機感が勉強に打ち込む動機となります。予備試験合格者の合格率が、ロースクール出身者の合格率と並ぶ程度になるまで合格者数は増加させるべきと思います」
【藤本 尚道弁護士】「予備試験ルートでの司法試験合格率61.79%に対し、法科大学院ルートでは21.57%と圧倒的な差がある。双方の合格率が同じになるまで予備試験合格者を増やさないと、バランスがあまりに悪すぎ、このままでは法科大学院の制度に欠陥があることになって、現在の法曹養成制度が崩壊する。双方のルートの司法試験合格率が同じになるよう調整するため、現状では予備試験合格者を増やすべき。乱立された法科大学院が淘汰・整備され、本来の制度設計どおり機能すれば、予備試験ルートの合格率も自然に減って正常化するはず」
【鈴木 敦士弁護士】「予備試験合格者の本試験合格率がロースクール修了生の本試験の平均合格率と同程度になるまで、予備試験合格者を増やすべきだと思っています。予備試験がロースクール修了と同程度であることを確認するためのものだからそれで足りると思います。現状では、予備試験の負担が重すぎて、二回司法試験受けるのと変わらないのではないかと思います」
【武山 茂樹弁護士】「私は500人程度に増やすべきだと思います。本来、法曹になりたいのなら、誰でも受けられるのが司法試験のはずです。法科大学院にも確かに利点はありますが、時間的都合や経済的理由から、法科大学院に行けない方や行きたくない方にも、司法試験を受けることができる道を開いておくべきです。理想を言えば、誰もが受けられる司法試験に戻すべきでしょう。職業選択の自由を理解していない方が、法科大学院制度を作ったと言われても仕方がない現状だと思います」
【川面 武弁護士】「多額の国費が投入されている法科大学院については、その修了は単に本試験の受験資格(司法試験法4条1項1号)を与えるのみならず、博士号を授与するという意味があります。一方予備試験ルートには、ほとんど国費をかけておらず、単に本試験の受験資格を与えるための試験に過ぎず(同法4条1項2号)、合格水準はどんなに厳格に考えても最下層の法科大学院をぎりぎり修了した者と同程度で良いはずです。真に絞るべきは、予備に過ぎない試験の合格者ではなく、本試験の合格者の方なのです。予備試験が本試験より厳格なのは本末転倒です」
●予備試験合格者を減らすべき
【斎藤 浩弁護士】「予備試験は廃止する。資力のない人や社会人については、厳正審査を経て、ロースクールの学費・生活費等を国費で奨学金として与え、また夜間のロースクールを充実させるなどの施策を講じる。『経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも、法曹資格取得のための適切な途を確保すべきである』というのが制度趣旨であり、現行予備試験はこれを大きく逸脱している」
●どちらでもない
【居林 次雄弁護士】「多彩な人物を法曹界に取り入れる必要があり、枠を設けて、優秀な逸材の合格を妨げてはなりません。全体として、弁護士が急増しすぎて、就職できないほどの合格者が出るのも、考えものです。そこで全体として、合格者を急増させない対策は必要と思いますが、どこ出身というような枠は、設けないほうがよろしいと思います」
【黒葛原 歩弁護士】「予備試験合格者数の相当部分を法科大学院在学者が占めているという現状は、なんとかする必要があるように思います。予備試験は本来は法科大学院に行くことができない人のための試験であり、優秀者選抜試験ではないからです。昨今の予備合格者のバックボーンを見ると,法科大学院に行けない社会人受験者等のハードルはむしろ上がっているようにさえ感じます。ロー生の受験を制限するとともに、代替として法科大学院の早期卒業制度を設けるなどの対策が必要なのではないでしょうか」
【北嶋 太郎弁護士】「予備試験は廃止すべきだと思います。旧司法試験が不毛な受験戦争を強いた反省でローによるプロセス重視の法曹養成にしたはずだと思いますが、一発試験で司法試験の受験資格が得られるのはどう考えても制度の趣旨に反しています。予備試験が導入された時はローに行く経済的余裕がない人のためという説明だったと思いますが、現状は単なるローのバイパスになっていると思います」
【近藤 公人弁護士】「優秀であれば合格させるべきである。単に、予備試験合格者を増やすという意見には反対。そもそも法科大学院を主流とした法曹養成制度自体を見直す必要がある。法曹を目指す若者の意見を反映した法曹養成制度を再構築すべきである。誰でも受験できるような制度にすべきで、法科大学院が存続するのであれば、法科大学院卒業生について、優先枠を設けて対応すべきである」
【桑原 義浩弁護士】「司法試験に、多様な人材が参加できるように、門戸はいろいろと準備されていていいのではないかと思います。法科大学院、新司法試験については、いろいろと問題点も指摘されていますが、このようなルートを選ぶことができない人もいるわけですし、結果的に予備試験合格者が増えたとしても、それはロースクールの見直しを検討すればいいだけであって、予備試験を減らすとか、あるいは逆に増やすとか、そういうことではないと思います」
【甲本 晃啓弁護士】「予備試験は法学部から短期間で法曹になる優秀な人のためのルートであるし、様々な事情じ法科大学院へ通うことができない人の救済になるので全く構わない。他方で、法曹の多様性を維持・拡充するには、法科大学院も必要であることには変わりがない。予備試験の合格者数の議論は、法科大学院の存続や教育内容の自由化など、他学部を出て法曹を目指す方に対する法教育のあり方とセットで議論しなければ、全く意味がない」