日本テレビ系列の地方局「山梨放送」の男性記者が取材相手に対して、肩書きを「毎日新聞記者」と偽り、嘘の名前を告げていたことが発覚して話題となっている。山梨放送は4月12日付けでこの記者と報道担当局長、報道部長の3人を懲戒処分し、記者を取材をしない部署へ異動。「社員教育を徹底し、再発防止に取り組む」(同社広報室)としている。
同社の社内調査に対して、記者は「問い詰められて、気が動転した」と話しているという。だが、たとえ深い理由がなくても、今回の行為が記者としての職業倫理にもとることは明白だ。山梨放送も毎日新聞社や取材対象者へ謝罪したとのことだ。
名前を勝手に使われた毎日新聞社はいまのところ、山梨放送の記者の責任をさらに追及する構えを見せているわけではない。しかし、このような「身分詐称」は何らかの罪にはあたらないのだろうか。あるいは、名前を利用された側や嘘をつかれた相手が、身分を詐称した者に対して損害賠償を請求をする余地はないのだろうか。元読売新聞記者の永野貴行弁護士に意見を聞いた。
●「身分詐称」は罪になり得る
永野弁護士は「身分を詐称すれば、場合によっては刑事上の罪に問われたり、損害賠償の対象になります」と説明する。
それは、どんな場合か。
「典型的な例は、『子』や『孫』といった『身分』を偽ってお金を騙し取る振り込め詐欺です。詐欺罪に該当しますし、組織的にやれば組織犯罪処罰法にも問われます。
警察関係者や銀行員だと身分を偽り、暗証番号を聞き出して預貯金を引き出す行為も同様です。被害にあった側は、身分を詐称した者に対して損害賠償も請求できます」
では、今回のケースも同じく「アウト」なのだろうか。
●実害があれば損害賠償の対象になったり、偽計業務妨害罪などに問われる余地も
永野弁護士は「報道された限りの情報によれば、何らかの罪に問われたり、損害賠償の対象になる可能性は低い」と指摘する。
「身分を詐称されて取材を受けた側や、社名を無断で使われた毎日新聞社に実害が生じているとは言えないからです。気分的には不愉快でしょうが、法律的に保護すべき利益が侵害されたとまでは言えないでしょう」
では、どんな侵害があれば問題に?
「例えば、(1)取材を受けた側が毎日新聞社の記者と信じたからこそ重要な情報を提供した場合や、(2)身分を詐称した記者が敢えて毎日新聞社の品位をおとしめるような言動をした場合は、損害賠償の対象になることもあるでしょう。軽犯罪法違反や偽計業務妨害罪に問われる余地もあります」
いずれにしても他人の名前を騙る行為は、法的には「すれすれ」であると考えて間違いなさそうだ。問い詰められて焦ったときにも妙なことを口走らないよう、言動にはとりわけ注意していきたい。