東京都調布市の市立小学校で昨年、当時2年生の担任だった女性教師がクラスの児童に暴言を吐いていたことが明らかになった。「なんて人としてのレベルが低い子どもたちだろう」「お勉強ができない人は字を書くのも下手」といった暴言の数々。それらは保護者が子どもに持たせた音声レコーダーによって録音され、動かぬ証拠となった。
この教師は、特定の生徒に対して「髪の毛触らないでくれる?気持ち悪いから」などと発言し、イジメを誘発していた恐れもあるとされる。その音声を聞いた保護者の中には、「ここに自分の子がいたなんて」と泣かずにはいられなかった人もいるという。問題の教師は学校の勤務から外れているというが、保護者たちの怒りや嘆きはおさまらないだろう。
複数の授業のなかから好きな授業を選択できる大学などと違い、小学校や中学校では原則として、児童・生徒が教師を選ぶことはできない。学校が一方的に決めた先生にお世話にならなければいけないのだ。しかし、「教育を受ける権利」は憲法でも保障された重要な権利だ。ひどい教師にあたったときは、その変更を求められないのだろうか。子どもに教師を選ぶ権利はないのか。横浜弁護士会の子どもの権利委員会委員をつとめる板谷洋弁護士に聞いた。
●子どもの「教育を受ける権利」にもとづき、親は「教育の是正」を求める
「新聞報道も参考にすると、問題の教師は、児童の人権を著しく侵害しているといえます」
板谷弁護士は端的にこう述べる。
「発達段階にある小学2年生の子どもに、レベルが低いとか字が下手とか、『言葉で質問されたら言葉で返そうよ。反応遅いのはだめだよ。人間やめてくださいと一緒だよ』と能力を問題にした暴言を吐いたり、特定の児童に対し、給食の際『1人前もらうのやめてくれる?』と言って、給食を少なくすることにクラス全員の同意を求めたり、当該児童を精神的に苦しめたり差別的取り扱いをして、いじめの原因を教師自らが作っています」
このように具体的な教師の言動をあげながら、その問題点を指摘する。では、こうした児童に対する人権侵害に対して、親は担任教師の変更を学校に要求できるのだろうか。
「親は、自分の生命や健康、安全、人格や名誉を守れない子どもに代わって、学校に対して担任の変更を要求できます」
板谷弁護士はこう語り、法律上の根拠として、憲法と教育基本法をあげた。
「子どもは、憲法13条の『幸福を追求する権利』や同26条の『教育を受ける権利』を有しています。また、教育の内容は、教育基本法前文で、『個人の尊厳を重んじ』『個性ゆたかな文化の創造をめざす』ものとされているのです。
この点、今回の問題教師の行為は、とても教育の名に値するものではなく、親の要求は教育の是正を求めるものですから、親は、学校に担任教師の変更を求めることができると考えます」
●25年前に都内の小学校で起きた「暴言教師」の事件
実は、板谷弁護士は約25年前、今回と同じような事件を受任したことがあるのだという。それは、東京都の区立小学校で教える50代女性教師が、1年生の女子児童数人に対して暴力や暴言、人民裁判のような差別的扱いをしていたものだった。解決まで、1年以上かかったという。
「被害児童の親が、保護者会で問題にしようと『問題点を書いたメモ』を他の親に渡し、教育委員会にも提出したところ、女性教師が虚偽の内容だと主張して、『謝罪しなければ、名誉棄損で刑事告訴する』と弁護士名で通知書を送りつけてきたのです」
それがきっかけで児童の親から相談を受けた板谷弁護士は、学校や区教委、都教育庁、都労組教育庁支部、都人権擁護部、PTA会長とありとあらゆるところに不当性を説いて回った。その結果、女性教師はその学校に復帰しないことになり、教師から来た告訴通知も撤回されたという。
「今回の事件は、録音があるので、『低学年児童が虚偽の発言をしているのではないか』と言われる余地は少なかったのではないでしょうか。私が担当した事件では、周りの親の反発や告訴通告もあり、マスコミには出さないよう注意していましたが、今回は、テレビや新聞で報道されたことが大きな影響を与えたと思います」
25年前にも同じような事件が東京の小学校で起きていたというのは驚きだが、親が「わが子に良い教育を受けさせたい」と思う気持ちは、今も昔も変わらない。小学校で受けた教育はその後の人生に大きな影響を与えるだけに、明らかに不適切な教師は変更できるようになることが期待されるだろう。