国土交通省が6月上旬に発表した2015年版の観光白書で、外国人観光客が増えてホテルが足りない実態が明らかになった。2014年の訪日外国人旅行者数は、前年比29.4%増の1341万人で、過去最高を更新している。
宿泊施設の客室の稼働率は、東京と大阪で特に上昇している。2011年は東京都で68%、大阪府で68.2%だったが、2014年は東京都が81.5%、大阪府で81.4%だ。一般的に、稼働率が80%を超えると、ホテルの予約を取りにくくなるといわれている。
東京都内の企業に勤務し、出張の多いWさんは「とくに大阪と福岡でホテルの予約が取りづらくなりました」とこぼす。平日でもホテルが取りづらくなっているので、出張のときは早め早めにホテルを予約するようにしているそうだ。
そのような客室不足の状況を改善するため、ニュースサイト「NewsPicks」では、「旅館業法を改正すべき」「規制緩和するしかない」といったコメントが多く寄せられている。規制を緩和して、空き部屋などの活用を進めることはできないのだろうか。櫻町直樹弁護士に聞いた。
●「ホテル営業」「旅館営業」にあたる可能性
「規制緩和を求める声の中には、たとえば、空き家や空き室を宿泊場所として活用できればと考える人もいるでしょう。
空き家や空き室を宿泊場所として提供することを有償で繰り返し行った場合、旅館業法で規定された『ホテル営業』や『旅館営業』などにあたる可能性があります」
櫻町弁護士はこのように述べる。『ホテル営業』や『旅館営業』になると、何が変わってくるのだろうか。
「都道府県知事等の許可を得る必要があります。
許可を得るには、提供しようとする施設・設備が、旅館業法施行令で定める構造設備基準を満たしている必要があります。
たとえば、ホテル営業であれば、客室数10室以上でなければならないといった条件です。また、都道府県条例で定める換気・採光等の衛生基準にも従う必要があります。
しかし、一般の人が持っている空き家・空き室を提供しようという場合、こうした基準を満たして許可を得ることが可能かといえば、難しいだろうと思います」
●国家戦略特区法で「部分的な規制緩和」
それでは、空き家や空き部屋を活用して、宿泊施設の不足を補うという考えは実現が難しいということだろうか。
「『Airbnb』のような宿泊マッチングサイトの出現によって、たしかに『宿泊場所を提供したい人』と『宿泊したい人』のマッチングは、極めて容易になりました。
しかし、『空き家・空き室の有償提供』について、旅館業法が適用される可能性がある以上、許可を得ずに行えば、違法行為として処罰されるリスクがあります。
適用を除外するなどの措置を講じない限り、『ホテル・旅館等の不足』を解消するための手段として、有効とはいえないでしょう」
今後、規制緩和は進むのだろうか。
「政府は外国人観光客の増加に対応するために、国家戦略特別区域法13条で、旅館業法の特例を定めました。
国家戦略特別区域内にある施設が、一定の要件を満たしている場合は、都道府県知事等の認定を受けることにより、許可を得なくても旅館業を営むことができるようになりました。『空き部屋』などを宿泊施設として転用することができるのです。
このように部分的にですが、すでに規制は緩和されています。今後、旅館業法そのものを含めて、規制がどのように緩和されるのか、注目が集まることになるでしょう」
櫻町弁護士はこのように述べていた。