弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 「イルカの命は他の動物よりも尊いのか」追い込み漁問題・太地町出身弁護士の見方
「イルカの命は他の動物よりも尊いのか」追い込み漁問題・太地町出身弁護士の見方
写真はイメージです

「イルカの命は他の動物よりも尊いのか」追い込み漁問題・太地町出身弁護士の見方

海外の団体などから「残酷だ」と批判を受けてきたイルカの追い込み漁をめぐり、大きな動きが起きている。

和歌山県太地町の追い込み漁で捕獲したイルカを購入していることを理由に、世界動物園水族館協会(WAZA)が、日本動物園水族館協会(JAZA)の会員資格を停止し、除名通告した問題で、JAZAは5月下旬、WAZA加盟継続の賛否を問う会員投票を行い、加盟継続が過半数を上回った。

この投票結果により、JAZAに加盟している水族館は、海外の要望に同調する代わりに、今後、追い込み漁で捕獲したイルカを入手することができなくなった。

報道や各種資料によると、太地町でイルカやクジラの漁が始まったのは400年以上前で、追い込み漁は、昭和初期には始まっていたとされる。音に敏感な特性を利用して、漁師が複数の漁船から、金づちを使って、金属音を出しながら入り江に追い込み、網で捕獲するものだ。この漁が、WAZAから「残酷」だと批判された。

追い込み漁については、「イルカがかわいそう」と批判する声がある一方、「文化なので続けるべきだ」という声もある。反捕鯨団体が強く批判し、2009年には追い込み漁を批判的に描いた映画「ザ・コーヴ」が公開され、話題になった。

太地町で追い込み漁をしている「太地いさな組合」は今回の投票結果を受けて、「WAZAが残酷とする部分がどういう点にあるのかはっきり分からない」と語っているが、この問題をどう考えればいいのだろうか。太地町出身の坂野真一弁護士の見解を紹介したい。

●追い込み漁の手伝いをしたが、残酷とは思わなかった

報道によれば、どこが残酷なのかという質問に対して、WAZAからは、明確な回答がないそうです。日本に対する欧米の価値観の押しつけではないかと思います。

私は、太地町出身で、子どものころ、父親が趣味で持っていた漁船に乗って、組合のイルカ追い込み漁のお手伝いをさせていただいた経験もありますが、残酷だとは思いませんでした。追い込んだ後、イルカを脅かしたり、いじめたりすることも当然ありません。

生き物を追い込んで捕まえる手法は、昔から人間がとってきた狩りの手法です。私自身、子どものころ、友人と川魚を追い込んで捕まえる遊びをやっていましたが、残酷であるという認識はなかったし、残酷だからやめるようにと叱られた覚えは一度もありません。

その後、学校帰りに魚市場でイルカやゴンドウクジラを解体するのを見ていたときに、つい「かわいそうだ」と思って口に出してしまい、無骨な漁師さんから「無駄にせんと、ちゃんといただかなあかんで、命をいただいたんやから」と突然、説教されました。

おそらく今回の事件は、捕鯨に関する問題も、背景に含まれているのでしょう。

人間は、生きていく上で、やむを得ず他の生物の命をいただいています。ニワトリ、牛、豚、魚、野菜もそうです。人間が生き物である以上、これは仕方のないことです。統計を見ると、欧米人の肉の摂取量は日本人よりも多いので、欧米人は、日本人よりも多くのニワトリ、牛、豚などを殺すことを容認していることになるでしょう。

その屠殺現場をどれだけの欧米人が目にしているのでしょうか。そこで殺されて食用にされる、ニワトリ、牛、豚はかわいそうではないのでしょうか。それらの命は、彼らにとっては命ではないのでしょうか。イルカやクジラは賢い動物だからという反論もあるかもしれないが、賢い動物の命がそうでない動物の命よりも尊いとなぜ言えるのか、私には分かりません。

●文化は平等であるべきではないか

欧米のクジラ・イルカを偏愛する価値観も、昔からの伝統があるのものではありません。クジラをかつて鯨油目的で大量殺戮してきたのは欧米です。ペリーが浦賀に来航したのも、捕鯨基地の確保が狙いの一つでした。クジラを乱獲して、大幅な減少を招いてしまいました。

クジラに関する文献には「アメリカ式帆船捕鯨で欲しいのは、クジラの体全体からすると1割に過ぎない脂皮からとれる油だけである」「鯨皮以外の鯨肉、内蔵、骨はすべて捨てて、次の獲物を狙い航海を続けていった」(小松正之著「クジラ その歴史と文化」より)とあります。

日本の捕鯨では、クジラの脂肪・肉はもとより、皮・筋・髭に至るまでも利用してきました。自分たちが生きていくために命をいただいた生物に対するせめてもの礼儀だからです。クジラを供養する石碑も太地町にはあります。

18世紀には全米で50億羽もいたといわれるリョコウバトは、その美味な肉のこともあり、1914年に絶滅しました。塩漬けにして大量に輸送されていたと伝えられていることから、商売としても成り立っていたのでしょう。

仮に、鯨油が欧米諸国の産業発展に現在でも必要不可欠な状況にあったとしたら、おそらく彼らは、鯨油目的の捕鯨をやめていない可能性が高いと、私は考えています。

誤解を恐れずに極論をいわせてもらえば、彼らは自分たちの生活・商売に必要な生物の命は、それを利用することに何ら疑問を感じない。しかし一方、自分たちの生活に必要ない生物の命は、その生物が他の国の人間の生活に必要であったとしても、奪うことを許さないと主張する。

そこには、他国の文化を尊重する姿勢は一切ありません。むしろ、自らの価値観が正しく、その価値観に沿わない行動は野蛮だと決めつける、傲慢さが多分に含まれているように感じます。

そして、イルカ・クジラの保護は、彼らにとって愛すべき存在を愛すべき存在として見続けていたいという、彼らの都合に合致するものなのです。

こんな例え話を聞いたことがあります。

「ある女性の問題に関する世界大会が日本で開催されました。大会が終わり、開催地は温泉地でもあったため、各国の女性たちは大浴場で温泉につかり、疲れを癒していました。そこに、掃除の時間を間違えた旅館の男性職員が数名、うっかり木戸を開けて入ってしまった。

女性たちは、悲鳴を上げて手に持った小さなタオルで身体を隠しました。

ある女性は胸を隠し、ある女性は下を隠しました。だが、恥ずかしくて見られたくない!と一番大きな声を上げた女性が小さなタオルで隠したのは顔でした」

というものです。

顔を隠した女性を笑ったり、隠す場所を変えるよう強要することは、正しいのでしょうか。

各国にはそれぞれ、地域、人種、宗教等から創り上げられた文化があります。その文化は、人類の存続に危険を及ぼさない限りは、価値的には平等であるべきではないのでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

坂野 真一
坂野 真一(さかの しんいち)弁護士 ウィン綜合法律事務所
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則」「判例法理・取締役の監視義務」(いずれも中央経済社)、「弁護士13人が伝えたいこと~32例の失敗と成功」(日本加除出版)等。近時は相続案件、火災保険金未払事件にも注力。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする