筑波大学の研究チームが開発した「NHKだけ映らないアンテナ装置」がインターネットで話題を集めている。4月25日、26日に千葉・幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議」では、このアンテナ装置が出展された。
はたして、本当に「NHKだけ映らない」ようにできるのか。また、どうして、こんな装置を作ることになったのか。弁護士ドットコムニュースの記者は26日、ニコニコ超会議のブースを訪れて、開発を指導した筑波大学システム情報工学研究科・視覚メディア研究室の掛谷英紀准教授に聞いた。
●アンテナ装置はすでに「商品化」されている
視覚メディア研究室のブースは、ニコニコ超会議の研究発表イベント「ニコニコ学会β」の一角にあった。ニコニコ学会βには、迷路のゴールを目指して自律的に走行するロボットなど、ユニークな発明品がいくつも出展されていたが、なかでも人気を集めていたのが「NHKだけ映らないアンテナ装置」で、ブースの前には多くの人だかりができていた。
このアンテナ装置は、筑波大学システム情報系研究室の学生たちが卒業制作として考案した。「共振型ノッチフィルター」と呼ばれる電気回路を使っており、NHKの周波数の信号は通さないが、民放の周波数は通す仕組みだという。テレビのアンテナケーブルにフィルタ式の器具を取り付ける。この「NHKカットフィルタ」の実物は、手のひらに乗るくらいの大きさだった。
弁護士ドットコムニュースの記者が、カットフィルタを取り付けたテレビで試してみたところ、NHK総合放送とEテレはまったく映らなかった。ブース前で来場者に説明をしていた掛谷准教授にたずねると、理論的・技術的にはそれほど難しいものではなく、「電気電子工学系の大学2年生が習うレベルだ」と話す。
すでに、茨城県内のベンチャー企業が商品化しており、「関東広域圏向け地上波カットフィルター」として、アマゾンなどで7000円程度の価格で販売されている。ほかにも、NHKのBS放送をカットする製品や、関東以外の地域に対応した製品もあるという。
●「NHKのスタンスに疑問をもったのがきっかけ」
どうしてこのような装置を作ったのか。掛谷准教授は「公共放送であるNHKのスタンスに疑問を持ったのがきっかけ」と口にした。
2013年、NHKの国会中継の映像が動画サイト「YouTube」に投稿された。いわゆる従軍慰安婦問題について、正反対の立場の2人が質問している動画だったが、「NHKの申し立てで、一方の動画だけが削除された」(掛谷准教授)という。
掛谷准教授は「民主主義の否定であり、中立意識の欠如だ」と考えた。そこで、専門分野がディスプレイということもあり、まず「NHKだけ映らないテレビ」の開発を検討した。しかし、NHKがデジタル放送の技術など、テレビに関する多くの特許を持っているため、販売は難しいと判断し、ケーブルに取り付ける「カットフィルタ」に切り替えたという。
このカットフィルタを使えば、NHKがテレビに映らなくなる。ということは、NHKの「受信料」を支払わなくてもいいのだろうか。掛谷准教授によると、NHKカットフィルタを実際に取り付けた人のなかには、NHKの訪問員に「受信できないこと」を確認してもらい、受信契約を免れたケースもあるという。また、受信料不払いを争っている弁護士グループに装置を提供したそうだ。
●受信料を払わなくてもよくなる?
放送法では「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定めている(同法64条)。今回のカットフィルタを取り付けることで、「NHKの放送を受信することのできない受信設備」となり、受信契約を結ばなくてもよくなるのではないか。
掛谷准教授によると、NHKが再び映るようになる「復元可能性」がどれくらいあるのかが、ポイントになるという。「過去に郵政省(現総務省)は、『復元可能な程度にNHKの放送を受信できないように改造された受信機については、受信契約の対象とする』という見解を示しています」(掛谷准教授)
今回の装置はフィルタ式で取り外しができるため、「復元可能」と判断される可能性がある。そうした事態に備えて、掛谷准教授はアンテナ装置を進化させた「NHKだけ映らないアンテナ」も開発した。このアンテナの場合、取り外したらNHKだけではなく、すべてのチャンネルが映らなくなるので、「復元可能とはいえない」(掛谷准教授)というのだ。
ブース前にやって来た人たちは、掛谷准教授の話を「面白い」と熱心に聞き入っていた。なお、25日に「ニコニコ学会β」でおこなわれたプレゼン大会では、視覚メディア研究室の「カットフィルタ」と「アンテナ」の発表があり、ニコニコ生放送の視聴者による投票で「大賞」に選ばれるなど、注目度は非常に高かった。