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「僕の彼女になれば仕事をあげる」愛人契約を求められた女性は慰謝料を請求できるか?
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「僕の彼女になれば仕事をあげる」愛人契約を求められた女性は慰謝料を請求できるか?

「僕の彼女になってくれれば、編集者を紹介してあげる」。ある女性イラストレーターが、某評論家から「愛人関係」を結ぶことを求められたと告発する漫画が、3月下旬からツイッターで公開され、話題になっている。

この漫画によれば、女性イラストレーターは当時、出版社にイラストを持ち込んでもなかなか仕事につながらず、わらにもすがる思いで評論家にアドバイスを求めたそうだ。この評論家から、編集者を紹介することができる、との返事があって舞い上がり、喫茶店で落ち合ったところ、冒頭の言葉を発せられたのだという。

女性イラストレーターは、思いがけない提案に動揺しつつも、厳しい家庭の事情や将来が見えない焦りから、愛人になることを承諾してしまったという。そして、評論家に連れられてホテルにまで入ったが、肉体関係をもつことを拒絶し、結局、愛人関係を解消したとのことだ。

ツイッター上では「枕営業の強要だ」「クリエイター志望者を食いものにしている」と評論家を批判する声が多く見られる。その一方で、「女性も自業自得」「全然卑怯じゃない。すべて女性に決めさせている」と擁護する意見も少なくない。

たしかに、漫画を見る限り、評論家は「無理強いはしない」「君にも選ぶ権利はある」「五分あげるからひとりで考えて」と述べたとされており、愛人関係を結ぶかどうかの選択は、女性イラストレーターにゆだねられていたようだ。

だが、この女性イラストレーターは精神的に傷ついている。もし仮に、漫画に描かれたような経験をした女性が、愛人契約を求めてきた相手に慰謝料を請求したら、認められるのだろうか。男女をめぐる法律問題にくわしい田村勇人弁護士に聞いた。

●愛人契約は公序良俗に反するので「無効」

「今回の漫画に描かれた内容がどこまで真実なのか、現時点で第三者には、ハッキリしたことはわかりません。そこで、この漫画に描かれたようなことが実際にあったとすれば、という『仮定の話』として、お話ししたいと思います」

田村弁護士は、このように前置きしたうえで、解説を始めた。

「まず、『評論家が愛人契約をもちかけた行為』について、考えてみましょう。

この行為が違法かどうかを判断するにあたっては、漫画に記載された内容から『客観的な事実』だけを抜き出す必要があります。評論家に開示されていないイラストレーターの内心や状況を、評論家の行動や動機を判断する材料にすることはできないからです。

そして、評論家の行動に関する事実を客観的に見ると、『イラストレーターからファンだと握手を求められた→作品を見てほしいと言われた→作品を見て、彼女になるなら出版社を紹介すると言った→彼女になるかどうかは君の自由と伝えた』ということになります。

一方で、『彼女にならなければ、出版社に圧力をかけて出版できないようにする』などといった、要求に応じなければ不利益を与えるようなことを示唆したという事実はありません。

したがって、『僕の彼女になれば本を出させてあげる』と持ちかける行為に違法性はありません。また、評論家とイラストレーターは上司・部下の関係にあるわけでもないので、セクハラにも該当しません。

よって、愛人契約をもちかけた行為について、評論家はイラストレーターに慰謝料を支払う必要はありません」

愛人契約を持ちかけること自体は、何の問題もないということだろうか。

「違法性がないから社会的に許される行為だということではありません。対イラストレーターとの関係で、慰謝料が発生するほどの悪辣(あくらつ)さはない行為だという意味です。

違法性がなかったとしても、愛人契約は公序良俗に反する内容ですから、無効です。評論家が性行為を強要することも、逆にイラストレーターが出版社の紹介を強要することも、どちらもできません」

●慰謝料を請求できない場合とは?

「次に、ホテルでの評論家の行為について、イラストレーターに対する慰謝料が発生するかという点です。

漫画によると、イラストレーターは、出版の対価として『彼女』になることを了承し、ラブホテルに入っていますが、ホテルの中で性的行為を拒絶しています。そのような状況の女性に対して、キスしたり、体に直接触れる行為は、刑事責任として、強制わいせつ罪や強姦未遂罪が成立しえます。また、民事責任として、慰謝料が発生します。

ただ、評論家がこの漫画に描かれている事実を否定した場合、強制わいせつ罪や強姦未済罪を立証することは難しいと思います。自らの意思でラブホテルに入ったことなどの事情がありますから」

では、漫画に描かれたような事実が法廷で立証されれば、女性はかならず慰謝料を請求できるのだろうか。

「一つ、注意しなければいけないのは、時効の問題です。

このような行為は、民法の『不法行為』にあたりますが、不法行為にもとづく慰謝料の請求権は、被害者が損害と加害者を知ったときから『3年』で時効にかかり、消滅してしまうのです。

したがって、漫画に描かれた事実があったとしても、3年以上前のことであれば、慰謝料を請求することはできない、ということになります」

田村弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

田村 勇人
田村 勇人(たむら はやと)弁護士 弁護士法人フラクタル法律事務所
離婚等男女問題の専門家として活躍する一方、医師・歯科医・獣医側の医療訴訟を多数手掛ける。東京都獣医師会顧問弁護士。過去に、「知りたがり」のレギュラーコメンテーター、「ノンストップ」、「ワールドビジネスサテライト」、「とくダネ!」などテレビ番組でも活躍。

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