「相談したのに思ったように動いてくれない」「最後まで裁判をやりたいのに安易に和解を提案された」——弁護士にそんな不満を持つ依頼者もいるかもしれない。総合格闘技のファイターとしての顔を持つ堀鉄平弁護士(弁護士法人マーシャルアーツ代表)は安易に妥協せず、「闘う」ことをコンセプトに掲げている。どう闘っているのか、堀弁護士に聞いた。(取材・構成/重野真)
●得意分野で差別化を図る「第二世代」
いつの時代も進化を止めると廃れてしまう。ルール無用の路上喧嘩から始まった格闘技(第一世代)も、舞台をリングに移し、技術主体の闘いにシフトした。圧倒的寝技スキルがあれば、「タックル→テイクダウン」という必勝パターンが確立できたし(グレーシー一族は初期総合格闘技の立役者)、驚異の打撃があれば1発で相手を仕留めることができた(ミルコクロコップやヴァンダレイシウバなど)。彼らは「第二世代だ」。
そして、数年の歴史を経て、現在の総合格闘技はそれぞれの技術の連携が要求される「第三世代」へと続いている。次々と新しい戦い方が登場する格闘技では、現状維持のスキルでは勝ち続けることが難しい。
「総合格闘技は、その名の通り『総合的』に全部できないと、活躍できないようになってきた」
寝技か打撃か、どちらかが得意ならば勝てた時代はもう終わったという。寝技も打撃も、どちらも器用にできるのが大前提で、さらにそれを適時適切に繰り出すことが求められるシビアな時代になった。
堀さんは「弁護士業界も同様だ」と指摘する。新司法試験が導入され、弁護士の人数が一気に増えた。いまや弁護士という「資格」だけで食べていける時代ではなくなった。営業努力もせずに依頼が来るような牧歌的な「第一世代」から、離婚、相続、刑事事件など、特定の業務なら負けないという得意分野で差別化を図る「第二世代」を迎えた。
●問題を深掘りしてサポートする「第三世代」
しかし、堀さんによれば、得意分野があれば勝てるという時代も終焉するという。そこで、堀さんは次の一手を投じた。これが「第三世代」のトータル(総合)サービスだ。
トータルとは、離婚や相続、交通事故など幅広い分野の相談を広く受けるという意味ではない。依頼者の相談内容から真意を汲み取り、法律問題だけでなく、問題解決のためのサポートをトータルにおこなうということだ。その点は、総合格闘技にも通じるものがあるという。
「スポーツの場合も、野球、サッカー、バスケットボール、格闘技など異なる競技をすべてやるのは難しい。それらを少しずつやるのではなく、武道である格闘技を軸にもっと鍛えていくということだ」
たとえば、堀さんのメイン業務として、遺言・相続がある。普通の弁護士ならば、依頼者の相談の範囲内の遺言書作成しか行なわないことも多い。しかし、堀弁護士はマーケットに合わせたトータル的なコンサルティングを手掛けて、深掘りをしているそうだ。
顧客の求めるものは、トラブルの予防だけではなく、節税であったり、不動産の処理であったりすることがある。相続のアドバイスをするのであれば、当然、税務や不動産の知識がないとできない。もっとも、それら知識があるだけでは意味がなく、適時適切に税務や不動産の知識を既存の法律知識と融合させる必要があるという。
「遺言だけと言っているようじゃ駄目。古い弁護士。笑われてしまうよ」
依頼者の相談の背景までも読み取り、相続にしても、二代、三代先までのファミリーの節税も考える。信託や不動産管理まで含めたサービスを想定し、弁護士事務所とは別に、不動産会社も設立した。
●「依頼者のために闘う」強い気持ちが重要
ふだんは弁護士活動で忙しい堀さんだが、格闘家としても精力的だ。総合格闘技大会「THE OUTSIDER」に出場し、タイトルを狙っている。弁護士業務の合間を縫って、毎日2〜3時間はトレーニングに汗を流す。昨年12月に試合を終えたばかりだが、3月には新たな闘いを控えている。
そんななか、堀さんは「闘う弁護士」をキャッチコピーにして、業務を展開している。単に、格闘技をやっている弁護士という意味ではなく、依頼者の思いを汲み取って、最後まで相談案件について、闘っていくという意味だ。
第三世代として、依頼者満足度の高いサービスを提供するためには、「依頼者のために闘うんだ!」という強い気持ちが必要とのことだ。「相続対策のコンサルをやるということは、実はリスクがある。依頼者のために踏み込んだサービスを提供する反面、万一うまくいかないならば、責任も重大になる」
依頼者のために、という強い気持ちがないとできないということだ。
弁護士が、保守的に、安全運転でサービスを提供しているようでは、依頼者から選ばれなくなる日がやってくるのかもしれない。